僕をなくしたのは誰
芋子
第1話
いつも通りの一日だった。
女はそう吐くと満足げに口角を上げた。
辺りには散らかった衣類、常に七時五十五分を示している時計。
窓にかかったカーテンのせいで正確な時間帯がわからない。
そんな荒々しい部屋の中で、ただ一人時間が止まっているかの如く、女はずっと口角を上げたままインテリアの一部ようにそこに横たわっていた。
女の目からは何も見えていないように、この世界には自分しかいないように、だんだん自分だけを受け入れるように、すっと目を閉じていく。
…ミッションはクリアなのだろうか。
辺りに散らかった衣類が段々と赤く染まっていくのを目の端で確認できた。
それは確実に『終わり』の合図でぼくは女と同じように、否、それ以上に顔を嬉しそうに歪め声を出しながら笑った。
「ばいばい、おねえちゃん」
溢れた涙は嬉し涙なのだと言い聞かせた。
ぼくはいらない感情に支配されないようにと、笑い続けた。
震える体は歓喜のせいにした。
もうすぐでぼくももう死んでしまうと思った。
いい人でいるのはこれっきりにしたかったから。
ぼくの狂った笑い声しか響き渡っていない部屋の中で、たった一度だけごめんなさいとありがとうを呟いた。
そのまま感情をすべて部屋のごみ箱に捨てた。
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