「また会いに来たよ」

以星 大悟(旧・咖喱家)

「また会いに来たよ」

 私はワープを終え目的の宙域に辿り着く。

 目の前には、ぽつんと浮かぶ知的生命体の住む惑星ほしがある。

 久しぶりにここへ来た。

 ここは彼等の言葉だと、局部超銀河団おとめ座銀河団局部銀河群天の川銀河オリオン腕太陽系第3惑星【地球】。

 そして私が担当する惑星の一つ。

 私は監察者ウォッチャー

 彼等の基準では地球外生命体だ。


 ただし機械の触手で地球人を捕獲して肥料に加工するロボットに乗った、タコのような生命体でも、自転車の前かごに乗って少年と空を飛んだ方でもなく、ましてや他所様の惑星ほしを狩場にしている連中とも違う。

 四畳半のアパートにも住んでいない。

 光の国からやって来てもいない。

 カエル型で地球侵略を目論んでもいない。

 猫耳で異星間交流も望んでいない。


 私は最上位種族オーバーロード

 精神生命体に至った存在。

 そしてこの惑星ほしの行く末を見守る存在。

 あくまで見守るだけ、傍観するだけで彼等が自滅を選んだのなら何もせず、ただ末路を看取るだけの存在。

 それが監察者ウォッチャー


 私はこの惑星ほしに知的生命体、彼等が誕生してからずっと他の担当する惑星ほしを監察しつつ、不定期に訪れては見て来た。

 この惑星ほしの生命体は、彼等は評議会の基準で将来的危険因子に分類される要注意種族。

 同種族間での殺し合いと差別を嗜好し、極めて排他的で類稀な攻撃性を持つ。

 

 一度で十分な世界規模の戦いを、それぞれの大義を掲げて二度も繰り返し。

 それが後の世代まで続くと予測もせずに、取るに足らない使命感と救い難い好奇心で原子爆弾を使い。

 宗教、民族、資源、時にはまったく理解の埒外な理由で争い。

 夥しい、そんな言葉では言い表せない数のたった一つしか無い命を浪費し続け。

 今も争い続ける。

 差別する。

 搾取する。

 憎しみあう。

 

 私が観察する彼等はそんな救いようのない生命体だ。

 私が観察する彼等はそんな唾棄すべき生命体だ。


 だけど私は彼等に期待している。

 何故なら彼等を評価しているから。

 確かに救いようのない生命体だけど、よりよい明日へ向かおうとする心も持っている。

 何度も躓き、取り返しの付かない過ちを繰り返し続けても立ち上がり、自らを律して歩んで来た姿は大いに期待できる。

 何時の日か揺り籠から巣立つ日を私は心待ちにしている。

 ただし今再び瀕している危機を脱してからの話だ。

 

 本当に救いようのない事に再び争いを起こそうとしている。

 どちらも取るに足らない。

 命を浪費するに値しない理由で争っている。

 

 そしてこの先、彼等はまた世界規模での戦争をするかもしれない。

 今度は核の炎が世界を包むかもしれない。

 文明は大きく衰退するかもしれない。

 核だけでなく、効率的に人を殺すように生み出されたウィルスや生物が猛威を振るうかもしれない。

 自らの手で環境を壊して滅ぶかもしれない。

 遺伝子操作で生み出した生物に滅ぼされるかもしれない。

 ロボットの反乱で、隕石で、色んな原因で滅ぶかもしれない。

 実際にそれで滅びた惑星ほしを私は何度も見て来た。


 私はそう物思いにふけながら呟く。

 今日もよりよい明日へ向けて歩もうとする彼等に。

 今日も自分達が一人ぼっちなのかと不安に駆られながら、稚拙な技術で僅かに離れた惑星ほしを観測し、何時か誰かが拾ってくれる事を祈って外へと電波を送り、健気にもメッセージを乗せた探査機を飛ばす彼等に。

 この膨大な宇宙に浮かぶ小さな惑星ほしに住む彼等に。


 私は呟く。

 また会いに来たよ。

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