第3話



 目を閉じて、天を仰ぐ。冷たい雪が鼻に乗っかり、僕の体温で溶けて頬を伝った。





「ゲッ。寒みッ」


 両肘を掴んでブルルッと身震いした一弥は、不快そうにチッと舌打ちして歩き出した。


「帰ろうぜ、真」


 隣でクルリと向きを変える。僕はその場から動こうとしないのに、一弥は気づかない。




 ――判ってた……事じゃないか。




 自嘲気味の笑みを浮かべた僕は、首を傾げて目を閉じた。




 もう、お終いだ。




 だから、ここを選んだんだから。最後のデートに。もう僕の元にはない、彼の心を痛感する為に。




 この――遊園地を。




「……一……弥ッ……」




 ざわめきが、聞こえる。




 雪にかき消されそうな僕の声に、彼が振り返る。少し面倒くさそうに、僕へと片手を差し伸べた。


「何してんだ、帰るぞ。カゼひいちまう」


「……あっ……」


 その姿に、十三年前の父の姿が重なった。




『何してるんだ、帰るぞ』




 同じ台詞だ。嫌々ながら、それでも仕方なく。見捨てておく事も、出来ないから……。




 それは優しくて、そしてとても残酷な影。




 涙が、出そうになる。




「ごめん、僕ッ。もうちょっと遊んでく!」


 制服の上に着たコートを翻し、駆け出した僕はすぐに一弥を振り返った。


 きっと変な笑顔を浮かべてるだろう僕の顔を、コートのポケットに手を突っ込んだ一弥が、怪訝そうに見つめる。


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