ホワイトデーの話

michibatanokoisi

第1話 ホワイトデーの話

 今日は3月14日、ホワイトデーだ。この日はバレンタインのお返しをする日として設けられている。

 妙な期待や変な浮遊感などはなくただお礼をするだけ。

 だから、バレンタインと比べると少し見劣りするようなイベントである。


 俺は服装を正し、前々から準備をしていたお礼の品をもってアパートを出た。荷物には高価なものも入っている。なくさぬよう紙袋をぎゅっと握りしめた。

 

 駅に向かい、改札で電車を待った。いつもこの時間なら学生がいるはずだが...

「いや、もう3月だから学生は学校がほとんどないのか。」

 あったとしても朝の課外活動などはなく午前中だけのはずだ。

 七年も前になる学生の頃の記憶がそんな気がすると言っていた。

 

 そういえばこれから右手に持ってるものを渡す彼女とも高校時代に知り合った。

 

「後輩君は誰か好きな人いるの?」

 生徒会の先輩であるこの人が唐突にとんでもないことを聞いてきた。

「何ですか、その男子高校生みたいな質問。」

「私男子高校生だもん。」

「じゃあ、何でスカートはいてるんですか?」

 しかも、丈を短くしてある。そこから見える生足がなまめやかしい。...校則違反だ。

「えーと、趣味?」

「生徒会なのに趣味で女装してる男子がいたらメンツ丸潰れだわ!」

「後輩君も行けるよ!」

「いや、いきませんけどね!?」

 生徒会に変態が二人もいるなんて嫌すぎる。

「で、好きな人いる?」

「まだその話掘り下げるんですか...」

 先輩はじっとこっちを見て返事を待ってるようだ。

 答えますか?Yes or No

 これは見逃してくれそうにないな。

「好きな人はいませんよ。」

「好きな人は、ね。」

 …そういうところだけ鋭いのはずるいと思う。

 先輩は俺から少し視線を外し、窓の外を見た。

「じゃあさ、私と付き合ってみない?」

「は?」

 気なる人からの付き合おう宣言。心臓が口からポロリと出そうな気がした。

 体中の汗腺から汗が吹き出し、血液がからだ中を駆け巡る。

 この時の自分の顔は想像に難くない。

 ただ、今思えばこの時の彼女の顔も真っ赤だったのだと思う。


 そんな、ありきたりで、いたずらめいたことから俺たちの交際は始まった。

 意外にもそんな始まりにかかわらず交際は長く続いた。

 先輩を追うように同じ大学に入学し、途中から同棲を始めた。

 喧嘩をすることもあったし、一度別れたこともあった。

 それでも、ずっとにいてほしいと思えるくらいには愛せていたと思う。


 

 目的の駅に着いた。

 まだ早い時間だ。近くの喫茶店に入る。

 席に着き、コーヒーを頼む。ミルクは入れない。

 そして俺はカバンからレターセットを取り出した。


「よし、こんなものか」

 書くのに夢中でコーヒーの残りは冷めてしまっていた。

 手紙も書けたので店を出る。

 目的の場所まで歩く。

 そこに彼女はいた。

「よ、久しぶりだな。ここに来るまでずいぶん時間がかかっちまった。こればかりは少し多めに見てくれよな。」

 もうすぐ春になる太陽は優しい熱を体に運ぶ。ここから見える梅の花たちはきれいに咲いている。

「いろいろ思い出してきたんだ。お前にあったこと、お前と過ごしたこと、お前が逝ってしまったこと…」

 目から涙がこぼれる。

「お前を失ってからもう一年だ。去年のホワイトデーはお返しができなかった。プレゼントを渡す前に会えなくなってしまたから…」

 涙が落ち、彼の黒い服にシミを作る。

「だから、今日は二年分のお礼をさせてくれ。まずはこれ。去年渡そうと思った用意したもの。」

 彼は紙袋の中からジュエリーケースをだす。

「次は今年の分。」

 紙袋から出したのは手紙とバッチだ。

「このバッチは俺らが高校生の時につけてたものだ。懐かしいだろ?ほかの生徒はめんどくさいからつけてなかったけど、俺たちは生徒会でいつもつけてたもんな。」

「手紙は…まあ、自分で読むのも恥ずかしいからここに置いておくよ。それに、読むとお前との思いで手紙が読めなくなるくらい涙が出そうだ。」



 それから彼は墓石を拭き、その場を後にした。

 春風が通り過ぎる。おかれた手紙は飛ばずその場にとどまったままであった。



 ~美鈴先輩へ~

 昔みたいに『先輩』って呼んでみました。ただの気まぐれです。

 少し不純な関係から始まった俺たちだけどここまでつづけることができました。毎年、バレンタインとホワイトデーは一緒に過ごしていましたね。誕生日を忘れられて怒ったことや、付き合って二年記念日に受験勉強でほったらかして怒らせたりしました。今となっては美鈴との大事な思い出です。

 それでも、唯一続いているこの日は俺にとってより大事なものです。初めてのホワイトデーは仲直りするきっかけになりました。その次の年のバレンタインは二人の関係が一歩進みましたね。別の年のホワイトデーは俺が別のところへ行くことで怒らせてしまいました。それでも、その次のバレンタインは二人で一緒に過ごせました。

 でも、今年からは違います。


 美鈴を失ってようやくいろんなことに気づかされました。

 こんなにもあなたが必要だったのかと…

 こんなにもこの日が大事に思っていたのかと。

 

 もっと、早く気づいて美鈴との時間を過ごしていたら…


 

 もうすぐ春が来ます。暦上だと春は来てますがまだまだコートは手放せないです。これから生活が一変する人が増えます。俺もその一人です。前の会社はさぼってしまったので止めました。

 これから、俺は別の道を生きていきます。あなたがいない道を。一年間悩みました。自らそっちへ行くことも考えました。でも、そのたび俺を叱る美鈴の姿が目に浮かんで泣きそうになりました。

 あなたがいなくても俺はこれから生きてあなたが知らない人生を歩みます。あなたをここで置いていく俺をお許しください。



 でも、この日だけは必ず会いに行くから…

 今まで幸せをもらった分だけあなたにお返ししたいと思います。


 愛してる




 それから、毎年彼女の墓の前にはホワイトデーの日、手紙とプレゼントが置かれるようになったらしい。

 最後に置かれた手紙には一行だけこう書かれていました。


 『次があるなら、絶対に君に会いに行ってありがとうと愛してるを言いに行くから。』




作者より

 ホワイトデーですね。僕はこのイベント別に好きでも何でもないです。男のほうからしたらお金が飛んでいくイベントです。ついでに永遠の愛などあるわけがないと思ってます。

 でも、どうやら彼は彼女のために働き、彼女を死ぬまで愛し続けたらしいです。

 何十年もずっと…

 

 バレンタインの時にも少し触れましたが別にバレンタインだからとかホワイトデーだからとか、こんな誰かが決めた平日どうでもいいです。

 ただ、そこに自分たちで価値をつけるだけでその人の命が変わってくるだけです。

 読んでる人は何かこの日に意味を見出しましたか?


 ツイッターで見た人もいると思いますがバレンタインデーとホワイトデーの話にはキャラに名前を付けておりません。

 唯一名付けたのは今回のヒロインだけです。

 皆さんにも今名前がついていないと思います。

 

 名前は人に限らず、『それ』を表す大事なファクターだと思います。

 好きな人に名前を呼ばれ幸福を覚えるのは自分が存在している、生きてる意味を感じたからではないでしょうか?


 では、多くの人にとってこの日が大事な日になり幸せを感じられるように願って

 


 

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