第29話 二人の姫
「これで終わりですね。あとは自分の力で更なる高みを目指してみて下さい」
「……はい」
メリアの魔法の知識が一定の水準を超えた事で宮廷魔術師としての俺の初仕事が終わりを迎えた。
「先生、また会えますか?」
「転移を覚えればいつでも会いに来れますよ」
「意地悪な先生……」
涙を流しているメリアの頭を優しく撫でると、突然抱き付かれて唇を奪われてしまった。
「先生、好きです。私を攫ってください」
「良いですけど、家族にはちゃんと伝えてからじゃないとダメですよ?」
「なんでそんなに冷静なんですか! 私、王女ですよ! 手を出したら極刑です! 分かってますか!?」
「話せば分かりますよ」
「そんな簡単に行く訳無いじゃない……」
メリアの手を取り、王様の御前に転移した。
「おっ、ジュース殿とメリアか、如何した?」
「メリアさんと結婚させてください!」
「先生っ!?」
「……ふむ、よく逃げずに言えたものだ。覚悟は出来ているのであろうな?」
王の威圧はさすがに肝が冷えるな……。
「お父様! 先生は関係無いのです! 私が先生の事を好きになってしまったのが全ての原因。咎めるのならばどうか私一人に!」
自分だけが犠牲になろうとするメリアの健気な想いは素直に嬉しいが、それじゃダメだ。
「メリアが俺の事を好きになってくれた、その時点でハーレム王たるこの俺は、例え世界が敵になろうともメリアを守る覚悟がとうに出来ています。どうかお許しを」
俺の本心を王様にぶつけて頭を下げる。
これでダメなら、メリアを連れてエルフの里にでも逃げよう。
「二人の気持ちはよく分かった! 爺や! 挙式の準備だ!」
「はっ、仰せのままに」
背後から声が聞こえて振り向くと、爺やと呼ばれた人物がニマニマといやらしい笑顔でこちらを見ていた。
メルラハン国に同行した執事さんだ。
「あー……そういう……オッケー、完敗だ。メリア、どうやら俺達は王様の手の平で踊らされていたようだぞ」
「え? どういうこと?」
「うむ。ジュース殿は既に察して頂けたご様子。つまり最初からお前達を一緒にするための謀だったという事だ。これも我が国を守るため、ジュース殿もメリアもすまない事をした」
王様が深々と頭を下げた。
政治的判断とか強国にするためとか、そういうのはどうでもいいし、この際メリアと結婚出来るんだから諸々の事情は無視してあげるか……。
ちょっと悔しいけど。
「えっと? つまり最初から先生と結婚させるために私に近付けたって事?」
「そういう事だ。王様も執事さんも人が悪いぜ」
「ほっほっほっ、私はメリア様とジュース殿が幸せになれるお手伝いをしたまでです。それと私は今日からメリア様とジュース殿の専属執事として仕えさせて貰いますのでどうかよろしくお願いしますな」
旅で言っていた執事を辞めたら俺に仕えるってこういう事だったのかよ。
「ああ、もういい、とにかく俺はメリアを幸せにすると誓うよ」
「うむうむ、政治的な事は我々に任せてジュース殿はメリアを幸せにしてくださればそれだけで良いぞ」
「先生と結婚出来るのは嬉しいですけど、なんだか納得出来ませんね……モヤモヤします」
こうして俺はメリアと結婚してジュース・デミ・アイシルという名を返上、今日からジュース・ランズバード・ノアークとして生きる事になった。
国を挙げてのロイヤル結婚式には俺の関係者全員も参加させて本当に盛大に祝われた。
俺が王族になった事で自動的に俺の家族も王族になったと知らされた俺の両親は卒倒し、ニーナはアホ面に、アマテはあわあわしてるし、他の嫁達もてんやわんやしていた。
元魔王のいちるだけは憐れむ表情を見せていた。
「はい、アナタ、あーん」
「あーむ、うん美味しい」
メリアはまだ未成年なので初夜は無く、城に割り当てられた夫婦部屋でイチャイチャする生活を送っていた。
「ジュース殿、メルラハン国より第四王女、クレア・キャロル・メルラハン様がお越しで御座います」
「爺や、敬語禁止」
「あぁ、いや、つい癖での、ともかくジュース殿にお会いしたいとの事」
ふむ、何か問題ごとなどで無ければ良いが……?
「ジュース様、メリア様、此度のご結婚、誠におめでとうございます!」
「ありがとう。それと前みたいに喋ってくれるとありがたいです」
「ではそうします。これは結婚祝いにとメルラハン王から、それとこれはわたしの嫁入り道具です。兄様とメリア様の縁談をそちらが一方的に破棄されましたので代わりにわたしがノアーク国と婚姻する事となりました。皇族の殿方ならば誰でも良いと父上は申しておりましたが、わたしはジュース様が一番気に入っておりますのでジュース様が認めて下さるまで、ここにいつまでも居座る所存でございます」
あぁ、これも父上と爺やの手の平って事だよな?
ならば答えは一つ!
「分かった。クレアと結婚します」
「えええええ!? 先生!? 私と結婚したばかりなのに!?」
「ジュース殿、さすがに爺も酷いと思います」
「え、だってこうなると分かってましたよね? 手の平でちゃんと踊れてますよね?」
「いえ、これはさすがに想定外です。第三王子様が何かしてくる可能性は考えておりましたが、まさか第四王女様がこの様な事を言い出すとは……」
あれれ? おかしいな? 手の平じゃなかった?
でも、もう断れないよ? 何故ならば俺はハーレム王だから。
「本当によろしいんでしょうか? ジュース様?」
「良いよ。クレアの事も大切にします!」
「うぅ、しぇんせぃ……」
「爺は、爺はどうしたら……」
「不束者ですがどうぞよろしくお願いしますね! ジュース様! メリア様!」
この後、結婚式を挙げたのだが、お祝いムードと言うより嫉妬の眼差しが多かった気がするのはきっと気のせいだろう。
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