ハーレム王に俺はなる!〜自重しない異世界生活〜

あるみひさく

第1話 転生する前のちょっとした話

 俺の名前は……別に、いいか。

 名乗るほど大層な名前でも無いし、日本全国を探せば何万人って規模で同じ名前の人間が存在するぐらいありふれている名前だ。

 そんな名前でも、簡単な漢字で画数も少ないので書類のサインをする時には便利だったな。


 ま、そんな事はどうでもいいか。


 とりあえず、猫が大型トラックに引かれそうになっていたのを見つけて、頭で考えるよも先に体が勝手に動き出してジャンピングダイブで猫を突き飛ばし、猫を助けた代わりに自分が死ぬことになってしまった。


 もっとやりようがあったかもしれないが、それ以外の選択肢は俺の頭の中には存在しなかった。




 トラックが目の前に迫る中、今まで生きて来た人生の記憶が一気に頭の中を駆け巡って行く。

 あぁ、これ、助からない奴だわ。


 こうして改めて走馬灯で自分の人生を振り返ってみると、他人の目ばかり気にしてつまらない人生を歩んで来たんだなと思いながら、次の人生があるのなら他人の目なんて気にせず欲望のまま好き勝手生きようと心に誓うのだった。


 ドンッ! という衝撃で体が宙を舞う。

 どうにかこの状況から助かろうと自分の脳が必死に思考を加速させ、体感時間が引き伸ばされていき、ゆっくりと時間が流れる中、助けた黒猫がジーッとこちらを見つめていたのが見えた。

 なんかこの猫、驚いた顔してないか?


 あれ、そういえばトラックにぶつかったってのに割と痛くないんだな、と思った瞬間、プツリとそこで意識が途切れるのだった。






「おっはようございますっ!」


 気がつくと少年か少女か判別の付かない顔立ちの子供がこちらの顔を満面の笑みで覗き込んでいた。


「お、おはよう?」


 何が何だか分からないがとりあえず自分は助かったみたいだな。

 大型トラックに引かれたってのに五体満足で、体のどこにも痛みは無く、まさに奇跡が――。


「突然ですがここで転生タイムです。次の内、好きなものを10秒以内で選んでください!」


 え?


「まず一つ目、来世もこの世界に転生する。もちろん記憶も何もかもを消去してね。あ、とりあえず人間に転生出来るからその辺は安心してね!」


 ん? ん?


「その二、異世界に転生する。これも今の記憶やらなんやらは消去して裕福な家庭に生まれ変わる事が出来ます」


 ワッツ?


「その三、魔王に支配された異世界に、魔王に対抗出来る能力を一つ持って勇者として生まれ変わる。ここなら今の記憶を残したままでも転生出来るよ! やったね!」


 矢継ぎ早に訳の分からない事を言われて頭が混乱する。


「ちょ、ちょっとまっ――」


「その四、これが一番のオススメ! 僕がランダム生成した世界に記憶を残したまま特殊能力満載な、いわゆるチートキャラとして転生する。どういう家庭に生まれるのか、はたまた人外として生まれるのか、もしかしてフジツボとして生まれ変わるかもしれない。そんなドキドキワクワクなランダム転生をする事が出来るなんて君はなんてラッキーなんだ! ヒューッ! ヒューッ! 熱いね! 妬けるね!」


 やけにテンションの高い子供は指笛を吹こうとするもフスーフスーと息が漏れるだけで終いには口で言い出した。


「君が何を言っているのかよく分からないんだけど、ここは病院? 君は誰?」


 変な子供に絡まれ、何かの間違いで精神病院か何かに連れて来られてしまったのかと思い辺りを見回すも、ここが部屋の中なのか、それとも屋外なのかも判然としないほどに世界は濃い霧で満たされていた。


 えっと、もしかして、ここって……?


「んん? あ、僕が説明している間に10秒経っちゃったみたい! てへぺろっ! じゃ、僕のオススメの四番目、僕の作った異世界へチートキャラとしてランダム転生行ってみよー! やってみよー! その世界で君が死んだ後は僕と結婚して永久就職だ! いっぱいイチャラブしようね! 子供は100人ぐらい作ろう! え? もっと欲しい? じゃあ、億行っちゃう? やだもー、そんなにしたら僕のアソコが壊れちゃうぞ! そういう事だから頑張ってねー! バイバイー! またねー! 元気でやれよー! 一途な恋も良いけどハーレムもオススメだよー! 殺しはあんまり好きじゃないけど悪人なら皆殺しで良いよ! 何もしないでダラダラ家に引きこもるのもアリ寄りのアリかな。僕的には大冒険して欲しいけどね! あ、魔族とか悪魔とか魔物とか居るけど僕の敵って訳でも無いから良かった仲良くしてあげてね! ちなみに僕の名前はロキって言うんだ! 君の知っている神話のロキとはちょっと違うけど、まぁ、大した違いは無いから安心してね! じゃ、そういう事で、行ってらっしゃいのチュ〜! んっまっ!」


「んむっ!?」


 ファッ!? ファーストキスが!?


 不意打ちで避ける事も叶わず、小さく柔らかな手で顔を挟まれて、こんなよく分からない性別不明な頭のおかしな子供にあっけなく、てっ、あれ……?


 何だか、だんだん……意識が遠くなって…………。


 意識が薄れていく中、子供が何かを耳元で囁いていたが何と言っていたのか理解する前に瞼が落ちてしまった。

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