第2話 ヒロイン

もしもの話をしよう。

君が物語の主人公だとしたら、そのヒロインはどんな人だろうか。

この問いをされた時、君は自分の好きな人をそのヒロインに重ねるだろう。いや、もしくは自分の好みの女性像を思い描くかな。

どちらでもいい。では、それらのヒロインに共通することは何だと思う。

可愛さ、綺麗さ、優しさ。

おそらく君が思いつくそれらは間違いではないのだろう。しかし、私が思うにこの答えはーー清純さではないだろうか?

ここでの清純とは、まさに性的な部分だ。

君が今まで読んできた本などを思い出して欲しい。そこに、誰かと体の関係を持ったものが主人公と結ばれた話はあっただろうか。

これは私の経験上の話になってしまうが、そのような本に出会ったことはなかった。

いつも読む本には喜劇だろうが悲劇だろうが、最終的に主人公と結ばれた話は目にしたことがない。

いつもそばにいるのは清純な女性。まるで、その他の女性は幸せになってはいけないかのように……。

人は目の前に清純な女性とそうではない女性がいた場合、どちらを選ぶのだろう。

多くのものは清純な女性を選ぶのではないだろうか。

もし、逆の選択をしたとしても、それは偽善者、同情心、物好きと罵られるだろう。

そう言われたら君は、これらの言葉に反論できるか?

それができる人は、本当に優しい人なのだろう。


何故このような話をしたのかというと、そのような主人公を知っているからだ。

しかし、彼は決して優しい人ではない。

彼はどちらかというと清純さを求めてしまう人だ。なのに、今彼の隣にいる女性はそうではない。過去に多くの関係を持っている。

じゃあ何故一緒にいるのか。

彼が彼女と一緒にいるのは自分のことを好きでいてくれるからだ。

自分のことをずっと好きでいてくれる人だから、彼は彼女のことを好きになれた。

しかし、清純さを求める性格のせいで苦しんでいる。そんな自分が恥ずかしい、醜いと自分を嫌いになるほどに。

彼女と付き合う前から知っていた事なのに、近づけば近づくほど過去が気になってしまう。

わかっている。過去なんてタバコを吸っていたかどうかくらいの小さな問題。そんなことはわかってる。何度もそう言い聞かせてきた。ずっと、付き合ってからずっとだ。

彼の心はもうボロボロだ。頑張るのをもうやめたいと何度も思うほどだ。

しかし、それでも別れようとしないのはやはり彼女のことが好きだから。

そのジレンマでどんなに苦しんでも別れる決断はできないだろう。

好きだから辛い。好きだから苦しい。好きだから自分が嫌いになる。

この苦しみを彼はずっと感じ続けなければならない。どんなに仮面で自分を偽っても、過去が見える度に胸が痛くなるだろう。



でも、仕方のないこと。それが彼の物語。彼が選んだ物語なのだから。



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