はぐれ聖少女《ワルキューレ》は戦えない!

ローリエ

 オープンニングエピソード

No.1 手伝って欲しいことがあるの

 平日の昼下がり、エイラはすることもなく、ただ空中を漂っていた。地上に降りることは任務で何度かあったけど、一人では初めてだ。

 「父さまもひどいです。少しいたずらした程度で、天界から追い出すなんて」

 まず、父さまの大切にしていたお皿で、飼っているドラゴンのポチとフリスビーして遊んで、そのあとの食事に日本の伝説のスパイス『WASABI』をあるだけ混ぜただけなのに。とてもお魚に合うと聞いていたから、天界密林で取り寄せて混ぜたら、父さまったらあまりの嬉しさに涙をこぼしていたわね。

と言うか、これって結構ピンチじゃない?私ひとりじゃ悪鬼は倒せないし、父さまの出した『悪鬼十体討伐』なんて果たせるわけない。

「どうしよう。天界に帰れないかも・・」

これからのことを考えると頭が痛くなる。

 

 かすかに規則的なチャイムの音が聞こえた。時間的に、地上の学生たちに昼休みを告げるものだろう。

「学校なら探せばいるかな」

 かすかな希望でも今はこれしか方法が無い。全力で音のするほうに向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ついに昼休みが来たか。俺みたいなぼっちにとって一番つらい時間は何時だと思う?放課後?体育の時間?

 いいや、どれも辛いことに変わりないが、一番は昼休みだ。断言できる。

 問題は飯だ。もちろん一人で食べることになるのだが、教室は弁当を持参したリア充女子の巣窟だ。俺に居場所は無い。では、学食に行くか。そこには、女子に飢え、高校生らしからぬガキな下ネタや恋バナに花を咲かせる、リア充もといリア獣の巣窟だ。

 ゆえに、一人弁当を持ち、屋上につながる階段に座り、細々と食べている。ここはいいぞ。誰も通らないし、静かだし。やめろよ泣いてないよ!そんな顔するなよ!


 今日も普段通り、弁当を食い終わり、あらかじめ買っておいた烏龍茶を飲む。

なんか、最近の高校生男子が飲むものと言えば、翼が生えそうなエナジードリンクな気がする。あれ、体に悪いから、やめたほうがいい。マジで。烏龍茶最高だよ?健康にもいいし、肥満とかも予防してくれるんだよ。みんな飲んで、おすすめ。


 と、授業が始まる五分前なので、教室に戻らなければ。立ち上がると、背後からドアの開く音が聞こえた。うちの屋上は危ないからって使用禁止だったはずだけど。何だろう。

 振り返ると、そこには翼の生えた天使がいた。

 え?エナジードリンク飲みすぎたらこうなるの?

 


――――――――――――――――――――――――――――――


「ふー、着いた。とりあえず屋上に降りちゃったけど、誰もいないし、大丈夫だよね。まあ、心配する必要もないんだけどね」

 私たち聖少女は霊力が高すぎるため、普通の人間には見ることは出来ない。

 霊感ある子だと、たまに視線とかを感じたりはするらしいけど。お風呂とかで、誰かに見られてる感じしたら、私みたいな超可愛い女の子が見てるかもね。


 ここに来た目的は二つ、一つは学生の心に潜む悪鬼を見つけるため、もう一つは適合者バディを見つけること。

 聖少女は、自分の力で悪鬼を打ち倒すことは出来ない。彼女らはあくまで、武器でしかなく、扱える者である適合者がいなければ話にならない。

 「といっても、私が見える人なんて絶対いないよなぁ」


 ま、歩いてたらなんか見つかるかもだし、とりあえず行ってみようかな。


 そして、学校へ入るドアに手をかけた


―――――――――――――――――――――――――――


「へっ…、て、天使?」

 なんて、なわけないか。どうせぼっちによくある症状の妄想こじらせちゃったパターン。はいはい、はずかしいはずかしい。

 落ち着くために烏龍茶を飲む。


「あなた、私が見えるの?」

 妄想じゃありませんでしたぁぁぁ。これどうするべきなの。反応するべきなの。ちょっと分かんないから、ペットボトルに口付けたまま固まった変な奴になってるんだけど。


「見えてるんなら、手伝ってほしいことがあるの」

 めんどくさいの確定演出だよこれ、絶対。と、とりあえず、うん。授業に行かないと。学生の本分は勉強だからね!(逃げ)


「あー。じゅ、授業始まるなー。そろそろ行かなきゃなー」

「ま、待って。話だけでも」

「あ、今日7日じゃん。出席番号的に当たるから、早く行かなきゃなー」


 我ながら、驚異的な棒読みである。

 多少の罪悪感はあれど、こういうのは関わらないが吉。

 そそくさと教室に向かった。


                                つづく

 

 

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