第60話

「ははは!! 英雄様! この力が分かりますか! この圧倒的な力が!!」


 ルマルドの腕は人間のそれでは無くなっていた。

 化け物の腕……俺はそう思った。

 先ほどの光る玉の影響なのだろうか?

 先ほどまでユートに怯えていたはずのルマルドだったが今は違う。

 ユートはそんなルマルドの姿をただ見つめる。


「この力! これが……これが……あちらの世界の魔力の力!!」


「………」


「今の私は貴方と同等の力を手に入れたぁぁぁ!!」


 ユートに向かってそう叫ぶルマルド、先ほどまでの落ち着いた雰囲気では無い。

 なんだか半分壊れてしまったようだった。

 しかし、そんなルマルドにさえもユートは動じない、ゆっくりと再びルマルドに近づいていく。


「貴方では私には勝てない! こちらの世界の魔力と、あちらの世界の魔力を持った私に……」


「言いたい事はそれだけか」


「な………」


 ルマルドが話しをしている途中、ユートはルマルドに近づき剣を振るう。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! 私の……私の腕がぁぁぁぁ」


「あぁ……すまない……落とすのは逆の腕だった」


 ユートが剣を振るった瞬間、ルマルドの右腕は地面に落ち、切り口からは大量の血が溢れている。

 ルマルドは思わず膝を付き、ユートを見上げる。


「な、なぜだ!! 切れるはずなど無いのに!! なぜ!!」


「知らないよ……そんなの……君が言ってる言葉の意味は大体理解しているよ……君がさっき体に取り込んだのは、悠人達の世界の魔力だね」


「そうだ……そのはずなんだ……なのに……なのになぜ!! なぜ切れる! なぜ恐れぬ!! 二つの世界の魔力を持つ人間など、今だかつて!!」


「きっと彩ちゃんの体内に溜まっていた魔力を取り込んだんだろうけど……そんな小細工で僕に勝てると思ったの?」


 話しの内容は一切分からなかった。

 この世界の魔力? あちらの世界の魔力? 俺達の世界の魔力?

 さっぱり分からないが、とりあえず魔力がなんかすげーのは分かった。

 俺がそんな事を思っていると、隣の彩が俺の服の裾を握ってくる。

 

「彩……」


「なんか……こっちの世界のあんた……怖いわね」


「……あぁ」


 確かに怖い、表情は怒っている様子が無いのだが、雰囲気で何となく分かる。

 ユートは膝をつくルマルドに向かってもう一度剣を振るう。

 剣が振り下ろされ少ししてから、もう片方ルマルドの腕は地面に落ちた。


「ぐぁぁぁぁぁ!! なぜだ!! なぜお前が私を切れる!!」


 痛みに悶絶しながら、ルマルドはユートに尋ねる。

 そんなルマルドに剣を突きつけながら、ユートは淡々と話す。


「簡単な話しですよ……あなた以外にもあちらの魔力を持っている人間は居るってことです」


「な、なんだと!? ま、まさか貴様ら!!」


「そろそろ終わりにしよう……レイミーを医者につれて行かないといけないんだ」


 ユートはそう言うと、剣を振り上げてルマルドに言う。


「レイミーを駒として扱ったお前の行為……僕は許さない」


「ま、待て……待って下さい!!」


 命乞いをするルマルドを他所に、ユートは動じる事無く剣を振り下ろす。


「あぁぁぁぁぁ!!」


 悲鳴を上げるルマルド、しかし剣はルマルドに掠ってすらいなかった。

 ルマルドは恐怖のあまり泡を吹いてぶっ倒れた。


「君には……もっと聞きたいことがある」


 ユートはそう言って、剣を鞘に収めて腰に戻す。

 その様子を俺と彩は、瞬き一つせずに見入っていた。

「殺さ……ないのか?」


「え? あぁ……殺したいほど恨んではいるけど……殺してレイミーが助かる訳でも……無いからね」


 俺の脇を通ろうとしたユートに俺は尋ねる。

 

「そう……なのか……」


「血なまぐさい場面を見せてしまったね」


 そう言ったユートの表情は、いつも通りの明るい顔に戻っていた。

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好き同士ってめんどくさい Joker @gnt0014

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