第53話

「フン!!」


 ユートは剣で植物の化け物を切りつけ、触手のように伸びる根を次々と切り落としていく。


「おわ!! イデッ!!」


 俺を捕まえていた根も切ってくれたようで、俺は宙から地面に落ちる。

 これで自由になれたが、未だに化け物がいる事に変わりは無い。


「よし、悠人! 僕の後ろに! このまま決める!」


 俺はユートに言われた通り、ユートの後ろに隠れる。

「はっ!」


 ユートは俺が後ろに来たのを確認すると、手をかざし、手のひらから大きな炎を出し、植物の化け物を焼き払う。


「ふぅ……下級の魔物だな、恐らく隠れ家を守るための防衛システムだったんだろうね」


「そ、そうか……お前って……本当に強いんだな」


 始めてユートの実力と言うものを見たが……本当に強いんだな……怒らせないようにしよ……。


「そんな事ないよ、この魔物は下級だから、誰でも倒せるよ」


「誰でもって……これがかよ……」


 デカい上になんか気持ち悪いんだが……。

 

「そんなことよりも急がないと!!」


「お、おう! そうだな!」


 俺たちは再び隠れ家を目指して進み始めた。





「ん……こ、ここは?」


 目が冷めると、私は小さな部屋の中に居た。

 部屋の中にはベッド、そして机と椅子があり、窓には鉄格子が取り付けられている。


「そうだ……私、連れ去られて……」


 だとするとここはどこ?

 牢屋にしては清潔感があるし……何より普通の部屋みたい……。

 私がそんな事を思っていると、部屋のドアが開き誰かが部屋の中に入ってきた。


「あら、起きたのね」


「あ、貴方は……」


 入って来たのは西井さんと瓜二つの少女だった。

 しかし、この少女の頭には角が付いており、見た感じ普通の人間ではなかった。


「ご飯持ってきたから食べてね」


「あ、ありがとう……ってそうじゃないわよ! なんで私を攫ったの!」


「……悪いけど、貴方がちょっと邪魔なのよ」


「邪魔って何よ! 私は何も……」


「貴方の存在が……邪魔なのよ!」


 そういう彼女の目には涙が浮かんでいた。

 彼女の目的は一体何なんだろう……。

 そして、なんで彼女は泣いていたのだろう。


「とりあえず、全部終わるまで待ってて……あと、抜けだそうなんて考えないことね」


「まって! 一体なんで私を攫ったの!」


「……言ったでしょ……貴方が邪魔なのよ……」


「邪魔って何よ!! ちゃんと答えなさいよ!」


 顔が西井さんだからだろうか?

 始めて会った感じのしない私は、初対面なのにも関わらず、強気で話しをしてしまう。


「アンタに何が分かるのよ!! あいつから愛されてるアンタが!!」


 彼女はそう言って私の胸ぐらを掴む。

 何の事を言っているのだろうか?

 それと私とアーネを間違えているのだろうか?

 私がそんな事を考えていると、彼女はハッと我に返り私を離す。


「ごめんなさい……貴方には関係無い話しよね」


「連れ去られてるんだから、もう十分関係あると思うけど」


「……こっちの世界の貴方……アーネと私は……元々仲が良かったのよ……」


「え……」


 彼女は寂しそうな表情で話し始めた。

 彼女は魔王の妹だったらしいのだが、戦いの途中で力尽き倒れていたらしい、そんな彼女を救ったのがユートだった。

 ユートは彼女を敵の大将の妹だと知りながらも、彼女の傷が治るまで看病をし、傷が治った後は魔王軍の領地まで送り届けたらしい。

 その時にユートやアーネと和解し、人間と魔物の和解の為にユートと一緒に戦ったらしい。

 しかし、ユートと過ごすうちに彼女はユートに恋をしてしまった。

 だが、彼女は知ってしまったのだ、ユートがアーネを愛している事を……。


「私だって最初は仕方ないって思ったわよ……でも……もう私の心は彼に夢中だった……でも、アーネと結婚した彼を見る度に、私は胸を引き裂かれるような思いだった。苦しくて、苦しくて……そんな時に……私はあの人と出会った」


「あの人?」

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