第47話

「おはよう悠人、昨日は良く……っておいおい! いきなり胸ぐらを掴むのはやめてくれ」


「てめぇ……俺が昨日どんなに……はぁ……もう良い……さぁ、さっさと帰してくれ」


「そんな事を言われても……僕今から戦場に行くし……」


 目が冷めた俺はユートの部屋に向かった。

 ユートは既に着替えを済ませており、どこかに行く準備をしていた。


「洗浄? 何か洗いに行くのか?」


「違うよ、昨日も言ったろ? 反乱軍を制圧しに行くんだよ」


 あぁ……そう言えばそんな事を言っていたような……。

 いや、待て!

 そしたら俺達はユートが帰って来るまでどうしたら良いんだよ!?


「おい! それじゃあ俺たちはどうしたら良いんだよ!」


「まぁ……ちょっとここで待ってて」


「夕方まで待つのかよ……退屈で死ぬぞ?」


「退屈ぐらいで人は死なないよ、それに……今日中に帰れるか分からないし……」


「は? お前今なんて言った?」


 目を反らすユートに俺は詰め寄る。

 いや、早いところ元の世界に帰して貰わないと困るぞ!!


「だ、大丈夫だよ、アーネが居るだろ? アーネなら君たちを元の世界に送り届けられる」


「それなら良いけどよ……」


 まぁ、俺は帰れるならなんでも良いけど……。

 

「んで、お前は戦争に行くのか?」


「あぁ……自分で言うのもなんだけど、僕が居ないと始まらない」


「そうかよ……まぁ、気を付けて行ってこいよ」


「そうするよ、じゃあ僕はそろそろ行くよ、アーネに後の事は任せてあるから、それと食堂に朝食が用意されてるはずだから、まずは食事でもしてくると良いよ」


「あぁ、じゃあな」


 ユートは俺に今後の事を一通り説明し終えると部屋を後にしていった。

 ユートも色々大変なのだろう、俺と変わらない年齢で戦場に行くなんて……。

 俺はそんな事を思いながら、食堂に向かう。


「おはようございます、悠人様」


「あぁ、おはよう」


 食堂にはサーリアがいた。

 俺の名前を呼ぶ時は『う』の部分を強調して呼ぶ。

 恐らくだが、俺とユートを呼ぶときに分かるようにしているのだろう。


「ユート様はもう行かれましたか?」


「あぁ、さっき一人で出て行ったみたいだよ」


「そうですか……」


 そう答えたサーリアの表情はどこか寂しげだった。

 主人が危険な場所に行くのを喜ぶ使用人はあまり居ないだろう。

 まぁ、よほど嫌な主人とかなら別だけど。


「心配?」


「えぇ……あの方は毎回無理をするので……」


「そうなのか?」


「はい……あの方はもうこの世界を救ってくれました……だからもう休んでも良いはずなのに……」


 寂しそうな表情でそう言う彼女はユートの事が心配なのだろう。

 こんな時、同じ顔の俺は彼女にはどんな風に見えているのだろうか……。


「大丈夫だよ」


「そうだと……良いんですが……」


 とりあえず大丈夫なんて言ってはみたが、何の説得力も無いな……もっと気の利いた事を言ってやれないのかよ! 俺!!

 俺は考えた末、サーリアにこう続ける。


「俺はそんなにやわじゃない」


「……フフ、そうですね」


 おぉ……よかった笑ってくれた。

 これで少しでも不安で無くなれば良いのだが……。 俺はそんな事を思いながら、用意された朝食に手を付ける。


「……おはよう」


「おう、おはよ」


 少しして、彩がアーネに連れられて起きてきた。

 なんだか少し不機嫌そうだが、一体どうしたのだろうか?


「なんだ? 気分でも悪いのか?」


「違うわよ……アーネが朝から……」


「昨日の夜の話しを聞いただけじゃない?」


「アレが全部アンタの魔法のせいって事に怒ってるのよ! 今度あんな事したら許さないからね!」


「本当は嬉しいくせにぃ~」


「嬉しくない!!」


 彩はそうアーネに怒鳴っていた。

 まぁ、確かに昨日は色々大変だったしな……怒る気持ちも分かる。

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