第39話

「はぁ……やはりどこからどう見ても……」


「そ、そうか……」


 ジロジロと俺の事を見てくるサーリア。

 まぁ、確かに珍しいのは分かるが……。


「あの……ゆ、悠人さんは……あちらの世界では何を? やはり勇者なのですか?」


「あぁ……いや……俺はただの学生だよ」


「学生!? 悠人様は頭がよろしいのですね!」


「い、いや……そんな特別言い訳では……」


 まぁ、昔は頑張った時期もあったが、一般人よりも少し出来るくらいだと思う。

 特別頭が良いわけでは無い。

 ましてや勇者と比べられちゃなぁ……。


「す、すいません! 変な事を聞きました……」


「いや、大丈夫だよ……こっちの世界の俺は……かなり凄い事をしたみたいだし……」


 惚れた女の為に世界を救い、英雄とになった今でも世界の為に戦っている。

 そんな奴と俺みたいな一般人は比べられない。

 この子だってユートを尊敬しているようだ。

 ユートに向けていた視線がどこかキラキラしていた。

「い、いえ……あの……そう言う訳ではなくて……すいません……」


「謝る必要ないよ、そりゅあ珍しいよな?」


「は、はい……」


 申し訳無さそうに頭を下げるサーリア。

 可愛いな……この子も普通に美少女だし、こんな子がメイドって……どんな経緯でこの子はユートの元でメイドをしているのだろうか……。


「君はなんでここで働いてるの?」


「なんでと言われましても……仕事ですし……」


「あぁ、そうだよね……変なこと聞いてごめんね」


「いえ……でも私がこうして働けるのもユート様のおかげなんです」


「え? どうして?」


「はい、私は元々奴隷として売られる予定だったんです」


「え!? 奴隷?」


 俺の世界には無い制度だ。

 それどころか、世界的にも禁止されている制度であり、俺は衝撃を受ける。


「はい、奴隷として売られるところ、私は旅の途中のユート様に救っていただき、こうして仕事を与えて貰ったのです」


「そう……なんだ」


 顔を赤く染めながら話しをするサーリア。

 きっとこの子もユートが好きなのだろう、なんだか恋してる感じの目をしている。


「こっちの世界の俺は随分立派だな……」


 それに比べて俺は……なんだか全然ダメダメだな……。

 俺がそんな事を考えていると、サーリアがとある部屋の前で止まった。


「こちらにユート様がいらっしゃいます」


「ありがと」


「それでは私は仕事に戻らせて貰いますね」


 そう言ってサーリアは仕事に戻っていった。

 俺は部屋のドアを開けて部屋の中に入っていく。

 

「ユート」


「ん? やぁ悠人、どうしたんだい?」


「暇なんだよ、何か暇つぶし出来るものないか?」


「暇つぶしか……そう言えば部屋には何も置いてなかったね」


「あぁ、流石に暇だ……ってかお前は何をしてるんだ?」


「ん? あぁ……明日の作戦の確認と準備だよ……剣を研いだり、ポーションを準備したり……」


「ゲームみたいだな……ま、そんな簡単なもんじゃないんだろうけど……」


「あぁ……誰にも傷ついて欲しくないよ……」


 ユートはそう言うと、窓の外を眺める。

 こいつは色々な功績を挙げてきた英雄だ、なんだが何でも成し遂げてしまいそうな気がする。


「なぁ、あのメイドの子……」


「あぁ、サーリアのこと? 彼女がどうかしたのかい?」


「可愛い子だな」


「そうだろ? 元は奴隷だったんだ……酷い話しだよ」


「知ってるよ、あの子に聞いた、お前が助けたんだろ?」


「まぁね……嫌な制度だよ……奴隷制度なんて……」


「お前……本当に勇者なんだな」


「急にどうしたんだい?」


「いや……」


 大きな家や慕われているユートを見て、改めてユートの凄さに気がつく。


「ん? そう言えばお前の嫁は?」


「そんな世界一綺麗な嫁だなんて……まぁ本当の事だけど」


「言ってねーだろ」


 まぁ、容姿が彩だからあながち間違えでは無いが…。

「そう言えば居ないな……もしかしたら彩ちゃんに会いに向こうの世界に行ってるのかもね」


「あぁ、そういうことか……」


 毎回一緒に行っている訳ではないのか……。

 俺はユートか暇つぶしようにこの世界のボードゲームを貸して貰い、部屋に戻っていった。



*



 私はアーネと共に大きな城の門の前に来ていた。


「この城の敷地内に私とユートの愛の巣が……」


「あぁもう分かったから……それにしても凄いわねぇ……」


 私は目の前の大きな城を見て驚いていた。

 お姫様とは聞いていたけど、こんなに大きなお城に住んでいたなんて予想出来なかった。


「それではこちらから」


「あ、うん」


 私とアーネは大きな門の脇にある、小さな門から城の敷地内に入っていく。


「お帰りなさいませ! 姫様!」


「ご苦労様です。ユートはもう戻ってこられましたか?」


「はい、先ほど……」


「そうですか、ありがとうございます。それと……」


「はい? なんでしょうか?」


「彩、どうぞこちらへ」


「お、お邪魔します……」


 私はアーネに呼ばれ、扉の向こう側に出る。

 そこには鎧を纏い、槍を持った兵士が立っていた。

 兵士は私の顔を見るなり、驚いて腰を抜かした。


「ひ、姫様まで! ふ、二人!?」


「まで? あ、それよりもこのことは内密にお願いいたします」


「わ、分かっております!! それではどうぞごゆっくりお休みください」


「ありがとうございます」


「そ、それじゃあ……」


 私とアーネは城の敷地内に入って行った。

 中は城だけでは無く、小さな家もあった。

 アーネの話しでは、城の使用人が住んでいるらしい。

「それでここが私とユートの愛の巣です!」


「はいはい」


 アーネの言葉に私は呆れながら答え、目の前の大きなお屋敷を見る。

 

「ここにねぇ……二人で住むには大きくない?」


「お父様がこのくらいの方が良いからと……」


「あぁ……お姫様ともなると、結婚祝いにお屋敷が貰えるのね……」


 生まれながらの勝ち組って羨ましいわね……。

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