第35話



「うーむ……」


「どうしたんだい? そんなに服を広げて」


「いや……明日何を着ていこうかと……」


 家に帰ってきた俺は真っ直ぐに部屋に向かい、鞄を置いて明日着ていく服を選んでいた。

 当然のように家に居たユートは、俺の部屋のベッドの上で漫画を読んでいた。

 順応早いなぁ……。


「あぁ、明日はデートだっけ? 頑張るんだよ! 部屋に連れ込めば後は勢いだから!!」


「何を言ってんだよお前は……」


 呆れながら俺はクローゼットから取り出した洋服を見ていた。

 

「いつも通りが一番だと思うけど」


「そうか?」


「まぁ、僕はこっちの世界のファッションとか流行は分からないけど……変に着飾るよりも良いと思うよ」


「そうか……」


 確かにユートの言うことも一理ある気がする。

 急にお洒落な服を着ていっても逆に変に思われてしまうかもしれない。


「なら、これにするか……」


 俺は着ていく服を決め、その他の服をクローゼットにしまっていく。

 

「あぁ……そう言えば、明日から僕はしばらくこっちの世界に来れないから」


「え? 何か用事でもあるのか?」


 まぁ、別に来なくても問題無いのだが、予告されると気になってしまう。

 

「うん、ちょっと殺し合いに」


「何をしにどこに行くんだよ……」


「あぁ、ごめんごめんちょっと言い過ぎたよ。ちょっと戦争に……」


「余計に規模が大きくなってんじゃねーかよ! 何があったんだよ! 戦争は終わったんだろ!?」


「前にも話しただろ? レイミー見たいな和平に反対している反乱軍が居るって……その反乱軍との戦争だよ」


「そ、そんな大事に……」


 たかが片思いで戦争まで引き起こすのかよ……あの女。

 

「まぁ、そうは言っても……戦争なんて僕はもう嫌だよ……人が死ぬのも……」


 そう話すユートの表情は悲しそうだった。

 数々の戦いを経験し、多くの人の死を見てきたのだろう。

 戦争を経験したからこそ分かる辛さをユートは知っている。

 だからこそ嫌なのだろう。


「大変だな……」


「あぁ、でも平和を維持する為には必要なんだ……」


 あっちの世界の俺も色々大変なんだな……。

 結局は世界が変わっても悩みの種類が変わるだけで、どの世界も大変な事に変わりは無いんだな……。


「さて……僕はそろそろ帰るよ……じゃあ」


「おう……来をつけろよ」


 ユートが俺に別れを告げた瞬間、ユートの周りに魔方陣が広がり始める。

 俺はそんなユートを見送りながら、洋服をクローゼットにしまう。

 

「あっ靴下!」


「え?」


 クローゼットに洋服をしまおうとした時、俺の不注意で靴下を落としてしまった。

 俺はそれを取ろうと一瞬魔方陣に触れる。

 

「え……」


 その瞬間、俺の視界がパーッと明るくなった。

 俺はあまりのまぶしさに目を閉じる。

 そして、再び目を開けると……。


「……ここ……どこ?」


 見知らぬ丘の上に立っていた。


「え……いや、マジでどこ?」


「あぁーあ……付いて来ちゃったか……」


「ユート!? お、おい! どう言う事だ!!」


 俺が焦っていると、俺の背後からユートが話し掛けて来る。


「ここは、君たちが住んでいるのとは別の世界……つまり、僕たちの世界だ」


「なるほど……」


 これが最近流行の異世界転生か……ん? いや転生はしてないか……って、そんな場合じゃない!!


「おい! 今すぐ帰らせてくれ!!」


「無理だよ、世界を渡るには大きな魔力が必要なんだ、一日に向こうの世界に行けるのは……僕だと最高三回……今日はもう三回行っちゃたから、次に行けるのは早くても明日の午後かな……」


「あ、明日の……午後!? それじゃあ間に合わないだろ!!」


「僕にそれを言われてもなぁ……」


「はぁ……折角……彩と出かけられたのに……」


 連絡を取る手段はあるのだろうか?

 このまま連絡も出来なかったら大変だ。

 彩との約束を破ってしまうことになってしまう……。

「落ち込んでるところ悪いけど……君はもっと危機感を感じた方が良いよ?」


「え?」


「僕、一応命狙われてるから」


「あぁ、そう言えば前もそんな事を言ってたな……それと俺が何か関係あるのか?」


「だって、君と僕は同じ顔だからね……この世界だと間違えて殺されちゃう危険性があるんだよ」


「あぁ……そういうことか、じゃあ気を付けるわ……じゃねぇだろ!! そんなヤバイ世界なのかよ!!」


「君の世界よりは治安は悪いかな?」


「最悪じゃねぇかぁぁぁぁ!!」

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