第28話

「凄いか……そうは言っても、僕だって最初は無理だって諦めてたよ」


「え……」


「だって、子供ながらに理解出来てしまったからね……彼女は王宮に住んでいて……僕は小さなボロ家……着ている服も別物……」


「まぁ……お姫様だもんな……」


「彼女の居る世界には絶対にいけない、そう思っていたけど……僕はどやら諦めが悪かったみたいでね……諦めずに方法を探して、見つけた出した答えが勇者になることだったんだ」


「その答えを見つけ出せるだけでも凄いよ」


 俺はそんな話しをしながら、彩の事を考えてしまった。

 俺とユートは違う。

 俺はユートが来なければ、彩を諦めるつもりでいた。 どうせ釣り合いなんか取れないと思い、俺は彩から距離を置いた。

 でも、こいつは呆らめなかった。

 どんな茨の道を進んできたのか、それは俺には分からないが、相当な努力をユートはしたのだろう……。


「俺には……無理かもな」


「……そうかな?」


「え?」


「だって悠人も同じじゃ無いか、彩ちゃんに好かれる為に努力をしてきたんだろう?」


「でも……俺は途中で諦めた……」


「そんなの僕もだよ、魔王軍の幹部と相対して実力差を見せ付けられた時や仲間が重傷を負った時、何度も諦めようと思ったよ」


「……なんで諦めなかったんだ?」


「それは、アーネが居たからだよ」


 ユートは笑いながら俺に言う。


「諦めそうになった時はアーネの笑顔を思い出してたよ。その笑顔をまた見る為に僕は何度も立ち上がることが出来たんだ」


 好きな人の笑顔が、ユートの心を何度も支えたのか……。

 でも、この世界に魔王なんて居ない。

 俺はどうやって彩と釣り合える?

 顔だって普通だし、誰よりも勉強が出来る訳でも無い。

 スポーツが得意な訳でもないし、何か特技を持っている訳でも無い。

 

「君は……彩ちゃんと釣り合う男になれないから、そんなに悩んでいるのかい?」


「……まぁ、お前には分からねーよ……この世界は……結構複雑なんだ……」


 周囲の目や世間体、そんなものが強い世界だ。

 魔物を倒したから凄い!

 見たいな世界とは違う。

 

「一つ聞きたいんだけど……」


「なんだよ」


「なんで愛する二人が結ばれてはいけないんだい?」


「だから……彩はアイドルで……」


「人気者なんだろ? でも、彼女だって人だよ? 誰を好きになってもおかしくないし、その権利が彼女にだって君にだってある。しかも君たちは両思いだ」


「そ、それは……彩の仕事になって影響が……」


「じゃあ、君は彩ちゃんが自分の事を好きだと知っていても、彼女に自分は相応しくないからって、諦めるのかい?」


「……あぁ」


「それで、彼女は幸せなのかな?」


「……知らねーよ」


「そんな訳ないだろう!」


「ぎゃぁぁぁ!!」


 そう言ってユートは俺に正拳突きをぶつける。

 てか、なんでいきなり暴力………?


「い……痛い……」


「もっとちゃんと彩ちゃんと話しをするんだ! 君は乙女心を……いや、彩ちゃんの気持ちを知らなすぎる!」


「だ、だからって……殴るな……」


 俺はユートにそう言われ、彩と話しが出来るか聞けと強制的にメッセージを送らされてしまった。


「彩は仕事で遅くなると思うし………流石に疲れてるだろ?」


「大丈夫だよ、彼女は絶対に断らない」


「そうか?」


 俺とユートはそんな話しをしながら、スマホの画面を二人で見ていた。

 すると、直ぐに既読が付き返信が来た。


【大っ嫌い(スタンプ)】


 あ……ヤバイ……なんか俺の中で折れてる……。

 俺はそんな事を感じながら、床に倒れ込んだ。


「悠人ぉぉぉぉぉ!!」


「……俺……もう……ダメかも」


「お、落ち着くんだ! これは何かの間違いだ! 冷静に理由を聞くんだ!!」


「……もう……死のうかな……」


「早まんないで!!」


 俺は全身の力を抜き、床に倒れ込んでいた。

 ユートの言うとおり、俺は自分が何かをしてしまったのかと彩に尋ねる。

 

【俺、なにかした?】


 俺が絶望の淵に居ると、直ぐに彩から返信が帰ってきた。


【間違えたの! そんな事思ってない!】


 間違い?

 そうか! 間違いなのか!!

 そうか、そうだよなぁ~、スタンプだったし!


「だよなぁ~、普通に考えて間違えだよなぁ~」


「立ち直り……早いね」


 俺は直ぐに彩に返信をした。

 

【そうか、少し話したいことがあるんだけど、今日も話せる?】


 俺は要件をストレートに尋ねる。

 すると、またしても直ぐに彩から返信が帰って来た。 

【コーラ一本】


「またかよ……」


 俺はそう呟きながら、「分かったよ」と送信する。


「上手くいったね」


「あぁ……コーラ買ってこないとな……」


「ちゃんと話しをするんだよ! 女心を分かってあげないとね!」


「お前にそれは言われたくない……」


 俺はユートにそう言い、彩への貢ぎ物であるコーラを買いにコンビニに走った。

 




「よっ……」


「うん……何? 話しって……」


 俺は昨日と同じ場所で、彩と合っていた。

 彩は昨日と同じでお風呂上がりで、部屋着姿だった。 

「いや……話しっていうか……ただ……」


「ただ?」


「……お、お前と……話したかっただけ……」


 あぁぁぁぁぁ!! 恥ずかしぃぃぃぃ!!

 これじゃあ俺が、彩を大好きみたいじゃないか!!

 俺は心の中でそう叫びながら、顔が熱くなるのを感じる。

 

「ふ~ん……そんなに私と話したかったのぉ~?」


「……ま、まぁな……」


「ふ~ん」


 彩はそう言いながら、小悪魔のような可愛い笑みを浮かべて俺の顔をジロジロ見てくる。

 あんまり見るな……死ぬ。


「しょうがないなぁ~、じゃあコーラちょーだい」


「ほらよ……」


「ありがと」


 彩はご機嫌な様子でコーラを受け取り飲み始めた。 

「で……何を話すの?」


「いや……考えてなかった……」


「誘っておいてそれ? 何、緊張してるの?」


「し、してねぇーよ!!」


「強がんなくて良いわよぉ~、だ~い好きなアイドルと至近距離で話しが出来るんですもんねぇ~」


「う、うっせぇ! 大好きを強調すんな!」


 まぁ、本当の事だけど………。

 彩はニコニコ笑いながら、俺の顔から視線を外さない。

 まるでおもちゃを貰った子供のような目で、俺を見てくる。

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