第20話

 そう言った彼女の顔は本当にユートを憎んでいる様子だった。

 眉間にシワを寄せ、何かを思い出しているようだ。

 一体何があったのだろうか。

 そんな事を考えていると、突然部屋のドアが開いた。


「悠人! 大丈夫か!!」


「ユート!」


 そう言って現れたのは、一階に居たはずのユートだった。

 頼もしいのだ、もっと格好を考えてほしい。

 エプロンにお玉ってお前……。


「き、君は! レイミー!!」


「ゆ、ユート……」


 あれ? なんでレイミーは動揺してんだ?

 いや、普通に動揺するならわかるんだが、なんでこいつは頬を赤らめてるんだ?


「レイミー……なんで僕とアーネにあんな呪いを……」


「そ、そんなの決まってるでしょ……アンタが……アンタ達が嫌いだからよ! こ、こんな世界が……嫌いだからよ!」


「だからって……なんで……一緒に戦ったじゃないか!!」


 ユートは彼女に必死に訴えかける。

 しかし、彼女は聞く耳を持たない。

 いや、持たないのは良いが……なんでこいつは頬を赤く染めて、チラチラユートを見ているんだ?

 これではまるで……はっ!

 俺はこの瞬間、すべてを理解した。

 なんでレイミーがユートとアーネに呪いを掛けたのか、なんで呪いの内容が嫌がらせのようなレベルだったのか……。


「あ、時間切れね……また来るわ」


「待つんだレイミー!!」


 レイミーはそのまま薄くなって消えていった。

 もし、俺の推理が正しければ、恐らく呪いはいとも簡単に消える。


「大丈夫かい悠人! 何もされなかったかい?」


「あぁ、大丈夫だ……なぁ、お前ってさ……」


「え? 何かな?」


「レイミーと昔付き合ってたりする?」


「え? 何を馬鹿な事を……たしかに良い仲間では会ったし、男女ではあったが、僕達の間にそんな感情が芽生えたことは無い……今ではあの時の友情さえも……っく……」


 悔しそうに嘆くユート。

 そういうことなら、俺の推理は恐らくおおよそ当たっているだろう……。


「なぁ……お前さ……」


「なんだい?」


「ちょっとあいつに愛を囁いてこいよ、そうすれば呪い解けるから」


「はぁ? 君は一体何を言っているんだ?」


「はぁ……いや、多分これは自分で気がつかなきゃいけない問題だと思うわ……」


「そんな事よりも彼女を追わなくちゃ! じゃあ僕はこの辺で!!」


 そう言うとユートも薄くなって消えていった。

 自分の世界に帰ったのだろう。

 しかし、あっちの世界の俺はモテるんだろうなぁ……何せ世界を救った英雄だし。


「って、今はそんな事を考えてる場合じゃない!! 早く彩への誤解を解かないと!!」


 レイミーの登場ですっかり忘れていたが、俺は彩に西井との関係を誤解されたままだった!!

 しかし、どうやって彩の誤解を解こう……。

 学校では一切会話をしないし……かといって会っても話しをしてくれないし……。


「どうしたものか……」






「ねぇ、彩……」


「………」


「もう! そんなに悔しいなら、意地張ってないで、さっさと付き合っちゃえば良いじゃ無い!!」


「………」


「もう~黙らないでよぉ~」


 私、名瀬彩は家に帰って来るなり最低な気分でベッドにうつ伏せになって寝ていた。

 理由は、帰って来て直ぐに見てしまったあの光景。

 そして、その光景をアーネも家の窓から見ていたらしく、家に帰って直ぐにあれこれ言われる羽目になってしまった。


「彩と悠人が結婚しないと私とユートは……」


「わかってるわよ! 良いから少し黙っててよ! 疲れてるの!!」


「………彩……」


 ようやく大人しくなってくれた。

 てか、なんで当たり前のように家に居るのよ。

 

「彩……女の子の日だからってそんなイライラしないで……」


「違うわよ!!」


 この子は天然なの?

 世界が違うと性格まで違うのかしら?

 はぁ……嫌なとこ見ちゃうし、アーネはうるさいし……本当、今日は最悪……。

 私はそんな事を思いながら、ベッドから起き上がり一階の浴室に向かう。

 お風呂にでも入ってスッキリしよう。

 そう思いながら服を脱ぎ始める。


「彩、背中流しましょうか?」


「な、なんで普通に入って来るのよ!!」


「え? 女の子同士だし、別に良いじゃ無い。それに同じ自分なんだし、鏡が意思を持って動いてる感じだから気にしないで」


「何そのホラー映画みたいな例え……」


 結局アーネと一緒にお風呂に入る事になってしまった。


「………」


「ん? どうしたの?」


「いや……本当に体型も似てると思って……」


 アーネの体型は私と良く似ていた。

 本当に鏡を見ているようで、なんだか気味が悪い。


「もう、あんまり見ないで恥ずかしいから……」


「入って来たのはアンタでしょ……まったく……」


 体を洗うアーネを見ながら、私はふと思った。

 あっちの世界の私はもう初体験を済ませてしまったのだろうか?

 ユートとあんなに仲が良いし、四六時中イチャイチャしているし、既にそういうことをしていてもおかしくは無いけど……。


「ねぇ……」


「ん? 何?」


「アンタ達って……どこまでいってるの?」


「どこまでって……何が?」


「いや……だから……その……したの?」


「何を?」


「だ、だから! そ、その……こ、子作り……的な……」


「ふぇ!? い、いきなり何を!!」


「だ、だって気になるでしょ!! あんたら四六時中イチャイチャしてるんだから!」


 お互いに頬を赤く染めながら、私とアーネは裸で言い合う。


「ま、まぁ……そ、その……い、一度だけ……」


「ほ、ホント!? ど、どんな感じなの? やっぱり痛いの!?」


「も、もう勘弁してください~」


 結局どんな感じかまでは聞けなかった。

 でも、そっか……あっちの世界の私と悠人は……。 

「やっぱり……世界が違うと、関係性も違うのね……」


「そ、そんな事言わないで!! 貴方だって悠人君の事が……」

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