第7話
*
彩が帰った後、俺は自室の部屋のベッドの上で枕を抱いて、ゴロゴロしていた。
色々とバレてしまったのと、彩の気持ちを知った事により、羞恥心やら嬉しいやらの気持ちが入り交じり、若干興奮状態になっていた。
「あの反応……彩も俺の事を……」
正直メチャクチャ嬉しい。
今すぐにでも付き合いたいのが本音だが、それは難しい。
勢いとはいえ、彩が告白して来ない限り付き合わないと啖呵を切ってしまったので、彩が告白して来ない限り付き合えない。
「あぁぁぁぁ!! なんであんなこと言っちまったんだぁぁぁぁ!!」
俺は叫びながら、激しくベッドの上を転がり回る。
そんな事をしていると俺の部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
「うるさいわよ!」
「か、勝手に開けるなよ!」
入って来たのは俺の母さんだ。
仕事から帰って来たばかりの様子で、まだスーツ姿のままだった。
「まったく! ベッドで何をしてる! ナニをする
ならもっと静かになさい!」
「うるせぇよ! 黙れよ!」
息子になんてことを言うんだ、この母親は……。
「まったく……なんでも良いけど、早くご飯食べに来なさい。準備できてるから」
「あ、あぁ……」
そう言えば色々考えていたせいか、腹が減った。
俺は一階のリビングに下りて行く。
「はぁ……腹減った」
「あ、遅かったね。先に食べてるよ」
「おいおい、俺の分も残しておけよ」
「大丈夫だよ、それより彩ちゃんとはいつ結婚してくれるんだい?」
「そうだな……ってなんでお前がここに居るんだよ!!」
リビングには、何食わぬ顔で晩飯を食べるユートの姿があった。
「何大声だしてるのよ……」
「か、母さん! なんでこいつが! てか、なんでそんな落ち着いてんだよ!!」
「はぁ? どっちもアンタなんでしょ……説明はそっちのアンタから聞いたわよ。双子になったと思えば、どうって事無いわよ」
「あるだろ! 息子が突然双子になるかよ!」
俺は母さんに文句を言いつつ、黙々と食事を進めるユートを見る。
「おい! 自分の世界に帰ったんじゃなかったのかよ!」
「帰ったよ? そしてまた来たんじゃないか」
「なんでだよ!!」
「君と彩ちゃんに結婚して貰うためさ」
「親の前でそういう事を言うなよ!」
「え? アンタようやく彩ちゃんに告白するの?」
「母さんも乗っかるなよ!!」
あぁ……必死に隠してきた事がどんどんバレる……。 俺は肩を落とし椅子に座って食事を始める。
「まぁでも……相手はトップアイドルだからねぇ……いくら幼馴染みでも、アンタは顔的に絶対無理でしょ?」
「実の息子に対して酷いな……いや、本当の事だけど……」
「お母さま安心して下さい! 二人は両思いなんです! だから、直ぐにでも結婚させられます!」
「え? そうなの?」
「はい! お互いに素直になれないようで……お母様からも言って貰えませんか?」
「まぁ……父親に似たのかしらねぇ……」
「二人してうるせぇよ!!」
リビングで母さんとユートから、アレやこれやと言われながら、俺は食事を終えて部屋に戻って行く。
「はぁ……なんなんだよ……」
「なんだと言われても……早く君が彩ちゃんと結婚してくれれば良いんだよ」
「おわっ! 勝手に入って来るなよ!」
「良いじゃないか、僕は君で、君は僕なんだから」
「そういう訳わからない事を言うなよ……」
「何でも良いから、早くこの婚姻届を持って彩ちゃんの家に行こう!」
「なんでお前がそんな物を持ってんだよ!!」
ユートの手には、証人の欄だけ埋められた、婚姻届が握られていた。
なんで、別世界のユートがこの世界の婚姻届を持ってるんだよ……。
「ん? おいこれ! 証人の欄……母さんの名前じゃねーか!!」
「相談したら、これを持って市役所? に出せば大丈夫だって!」
「母さんか! 母さんの仕業か!!」
母さんめ……余計な事をしやがって!
てか、彩はともかく、俺はまだ結婚出来る歳じゃ無いっての!
「さぁ! ここに悠人も記入して、彩ちゃんの家に持って行こう!」
「記入もしねーし、持っても行かねーよ!!」
もしかして、こいつはこれから、度々こっちの世界に来るつもりだろうか……。
*
私、名瀬彩は部屋のベッドの上でスマホを弄りながらニヤニヤしていた。
「えへ……えへへ……好きだってぇ~」
突然やってきた、別世界の私と悠人。
その二人のおかげで私の恥ずかしい秘密が、悠人にバレてしまったが、ユートの恥ずかしい秘密を知ることも出来た。
しかも、ユートの気持ちも知る事が出来て、今日の私は凄く気分が良い。
「えへへ……悠人ぉ~」
私はスマホに入っている、悠人の写真を見ながら、再びニヤニヤする。
昔から私の恋はずっと続いている。
小さいときからずっと悠人が好きだった。
だから、悠人の好みの女の子になろうと思って、私は悠人に尋ねた。
そしてら、悠人はこう言った。
『どんな子? うーん……アイドルみたいに可愛い子!』
当時の私はそれを聞いて、可愛くなる為の努力を始めた。
長年の努力のかいもあって、今ではトップアイドルとまで言われるようになった。
でも、今日まで私は悠人に冷たい態度を取っていた。 そのせいで、中学に上がる少し前から仲が悪く
なってしまった。
「悠人……」
今日はあんなことがあったからか、いつも以上に悠人を愛おしく感じる。
「あぁ! もうダメだ!」
私は我慢の限界を感じ、一眼レフのカメラを持って、部屋の窓のカーテンをそーっと静かに開ける。
窓の向こうには、悠人の部屋の窓がある。
悠人はたまにカーテンを閉めないままで、寝る事がある。
今日はカーテンが開いている。
「チャンスね……」
私は一丸レフカメラをのぞき込み、じっとそのときを待つ。
そして……。
「きた!!」
恐らくお風呂上がりであろう悠人が部屋に戻ってきた。
しかも上半身裸で!
「はぁ……はぁ……こ、これは……かなりレア!」
私は夢中でシャッターを切る。
こんなチャンスは滅多にない!
今のうちにいっぱい撮影しておかなければ!
そんな事を思いながら、夢中でシャッターを切っていると、突然誰かに肩を叩かれた。
私は驚き、咄嗟に後ろを振り向いた。
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