第3話



 今の状況を整理しようと思う。

 気がついたら、俺の目の前には俺が居て、彩が二人になっていた。

 服装はどっかのRPGとかに出てきそうな服で、容姿の違いは恐らくほとんど無い。

 うん、意味がわからない。


「どうしたんだい? ビックリした見たいな顔で」


「いや、目の前に自分そっくりな奴がいて、驚かない奴なんて居ないだろ!」


 もう一人の俺が口を開く。

 気のせいかわからないが、俺よりも物腰が柔らかい感じがする。

 目つきもなんか良いし、心なしかイケメンな気がする……。

 そんな事を話していると、もう一人の俺が話し始めた。


「驚かせてごめんよ、僕は君とは別の世界に存在する君なんだ」


「ごめん、まったく意味がわからない」


「私達は貴方たちとは別の世界の貴方たちなのよ」


 今度はもう一人の彩が話し始めた。

 一方の彩はというと、あまりの出来事に驚いて放心状態になっていた。


「ま、待てよ! 全然意味がわからねーよ!」


「そうだよね、じゃあ一から説明するよ」


「頼む」


 もう一人の俺は自分が何者なのかについてを話し始めた。

 もう一人の俺の名前はユート・オルカというらしい。 俺たちが居る世界とは別の世界の住人らしい。

 もう一人の彩の名前はアーネと言うらしく、彩と違ってニコニコと常に笑顔だった。


「それで……別の世界の俺が何のようだよ」


「それを説明するには、僕たちの世界に起こっている危機について話さなければならないね……」


「危機?」


「あぁ、僕とアーネの世界は長年の間魔王軍と熾烈な戦いを繰り広げていたんだ」


 ん? 今こいつ、魔王っていった?


「血で血を洗う戦いが100年以上も続いたその戦いもようやく終わり、魔王軍と和平を結ぶ事が出来たんだ」


「それって……もう危機は去ってね?」


「あぁ、勇者である僕の口から言うのもなんだけど、世界は救われたよ」


「え? そっちの俺って勇者なの!?」


 なにそれ、ちょー羨ましい……。


「そして、役目を終えた僕はアーネとの婚約の儀を控えていたんだ……」


 え! しかもそっちの世界の俺は彩のそっくりさんと結婚するの!?

 マジで羨ましいな……。

 勝ち組じゃねーかよ、そっちの世界の俺……。

 

「でも、そんな婚約の儀の前日……悲劇は起きたんだ!」


「な、何があったんだ?」


「魔王軍には、和平を僕を良く思っていない奴らも多いんだ……そんな奴らに、僕とアーネは呪いを掛けられたんだ……」


「ど、どんな呪い……なんだ?」


 俺は生唾を飲み込んだ。

 完全に話しがファンタジーちっくだが、それ以上に非現実的な事が俺の目の前で起こったのだ、こいつらの話は十分信用出来るのかもしれない。

 そんな事を考えていると、ユートは神妙な面持ちで話し始めた。


「その呪いは……運命交差と言って、別世界の自分が結婚した相手としか結ばれる事が出来ないという恐ろしい呪いなんだ……」


「………」


 いや、どこが?

 なんか今までの会話の流れだと、魔王軍の反勇者派の奴らがユートを殺しに来たとか、そんな流れじゃん……。


「えっと……それってつまり……」


「そう! この世界の君たちが結ばれてくれないと! 僕はアーネと結ばれないんだ!」


「ユート!」


「アーネ!」


 そう言って抱き合う二人。

 いや、俺と彩の姿で抱き合うのはやめてほしい、なんかスッゲー恥ずかしい……。


「僕はアーネを愛しているんだ!」


「私もユートを愛しているの!」


「だから絶対に結婚したいんだ!」


「私も同じ気持ちよ! だからお願い!」


「「貴方達も結ばれて!!」」


 抱き合いながら、交互に歯の浮くような小っ恥ずかしい台詞を言う、別世界の俺と彩。

 もうやめてくれ……見てるこっちが恥ずかしくて死にそうだ……。

 俺がそんな事を思っていると、彩が放心状態から素の状態に戻った。


「はっ! な、なんで私がもう一人!? なに!? ドッキリ!?」


「残念ながらドッキリじゃねーみたいだ……」


「て、てか! な、なんで私がアンタと抱き合ってるのよ!!」


「婚約するんだって……そこの二人」


「は、はぁ!?」


 顔を真っ赤にしながら驚く彩に、俺はユートから聞いた話を彩にした。


「な、なんで私がこんな冴えない奴と結婚しなきゃいけないのよ!!」


「俺にそれを言うなよ! こっちだってごめんだっての!」


「こっちの世界の僕たちは、こんなに仲が悪いのか……」


「なんだか悲しいわ……私たちはこんなにラブラブなのに……」


「そうだね、アーネ」


「ユート……」


「追いコラ! 何良い感じの雰囲気で見つめ合ってんだよ! やめろ! 俺の顔でそいつの顔に近づくな!」


「そうよ! なんでこんな馬鹿の顔見てうっとりしてるのよ!」


 喧嘩する俺たちを他所に互いに見つめ合う、ユートとアーネ。

 なんだかこのままキスとかしそうな勢いだったな……。


「君たちはどうしてそんなに仲が悪いんだい? こっちの世界のアーネもこんなに美人じゃないか」


「やめろ! 俺の顔で、俺の声色でそんな事を言うな! 恥ずかしいわ!」


「そうよ、こっちの世界のユートだってこんなに素敵なのに……何が不満なの!」


「ふ、ふざけないでよ! 不満だらけよ! こんな馬鹿のどこが良いのよ!!」


 俺はユートに、彩はアーネに声を上げる。

 世界が違うだけで、こんなにも違うなんてな。

 

「とにかくだ! 残念だけど、俺はこいつと結婚はおろか……付き合う気もないよ……」


「……っ! わ、私だって……誰がこんなやつ……」


 彩も俺と同じ意見か……。

 申し訳ないが、ユートとアーネには別の方法を当たって貰おう。

 呪いを解除する方法だってあるはずだろうし、それに……俺と彩じゃ釣り合わない……。


「そっか……」


「あぁ、遠いところから来て貰って悪いけど……」


 寂しそうな顔をするユート

 流石に少し申し訳ない気持ちになる。

 世界を救って、ようやく愛した人と幸せになろうとしたのに……。


「本当はこんな方法は使いたく無かったけど……仕方ないね……」


「ん? なんだって?」


「アーネ」


「わかったわ……はい」


 そう言ってアーネはどこからか、大きな鏡を取り出した。

 それを俺と彩の前に置くと何やら呪文をのようなものを唱え始めた。


「お、おい……な、何をする気だ?」


「君たち二人の本性を覗かせてもらうよ」


「「え!?」」


「本当はプライバシーとか、そういうのもあるから……あんまり使いたくないけど……でも、これしか方法が無さそうだから……」


「ま、待て! お、俺たちの本性を知っても……な、何も状況は変わらないぜ……」


「そ、そうよ! ほ、本性なんて……もう十分かりきってるんだから……」


「いや、僕は信じてるんだよ」


「な、なにをだよ……」


「どんな世界の僕たちでも互いを愛し合っているってことを!」


「だから、俺の顔でそういう事を言うな!!」


 俺がそうユートを怒鳴った瞬間、鏡は何かを映し出し始めた。


「あ、映ったね」


「ん? これって……俺の部屋か?」


 鏡はテレビのモニターのように俺の部屋を移しだしていた。

 何が始まるのだろうと、俺は息を呑んで見ていると俺が部屋の中に入ってきた。


「え……これって……」


 部屋の様子と俺の格好から見て、これは高校入学当時の俺だ。

 そして、その手にはアイドル雑誌が握られており、俺は嫌な予感がするのを感じた。


『えっと……今月は……おっ! 彩載ってるな……チェックチェックっと』


 そう言って鏡の中の俺は、アイドル雑誌に掲載されている彩のページに付箋を張り始めた。


「や、やめろぉぉぉぉぉ!!」


 俺はそう言って、鏡をたたき割ろうとする。

 しかし、見えない何かから体を拘束され身動きが取れなくなってしまった。


「な、なんだこれ!?」


「ごめんよ、今はじっとしていてくれ」


「は、離せ!!」


 俺は体を動かそうとするが、指一本動かす事が出来ず、その場から動けなくなってしまった。

 そして、鏡の中の映像はどんどん先に進む。

 俺はこの映像の先を知っている。

 だから、俺はなんとしてもその映像を彩には見せたくなかった。

 映像の俺は雑誌を見終えると、クローゼットに歩いて行く。


『どんどん増えていくな……』


 クローゼットを開けると、そこにはそれまでに溜めた成瀬彩音のグッズや雑誌が、山ほど置かれていた。

 俺が見られたくなかったのはそれだ。

 実は俺は、彩がデビューした時から彩のグッズや彩が載った雑誌をすべて保管していた。

 もちろん、それは今でも続いている。

 なんで俺がそんな事をするか、その理由は簡単だ。

 俺が今でも、心のどこかで彩を好きでいるからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る