第2話
「この手紙……君が書いたの?」
「は、はい……あ、あの! 私!」
「誰に命令された!」
「え?」
「自慢じゃないが、俺は今の今までモテたためしがない!」
「うん、威張って言う事じゃないぞ」
「だから、正直俺は君を疑っている!」
「うん、悠人……ちょーっとこっちに来ようか」
「な、何をする!」
俺は学に肩を掴まれ、手紙を出した女子生徒に背を向けてコソコソ話しを始める。
「なんだよ! いつ的が出てくるかわからないんだぞ!」
「いや……これは普通に告白じゃない?」
「馬鹿を言うな、俺を好きになるなんてどうかしてるぞ!」
「それは自虐ネタ? それともあの子を馬鹿にしてるの?」
しかし、学の言うことも一理ある。
確かに周りに人の気配は無いし、手紙をくれた女子生徒もなんだか顔を赤くしてソワソワしている。
「あのさ……これ、多分……俺は居ないほうがいいよね?」
「ん? まぁ……喧嘩になっても邪魔だしな」
「ハッキリ言うねぇ……まぁ、事実だから何にも言えないけど……じゃあ俺は昇降口で待ってるから、終わったら来てよ」
「お、おう……」
学はそう言って駆け足で昇降口に戻って行った。
勝手についてきたのはお前だろうと言いたくなったが、今は目の前の彼女の話しを聞こう。
「悪い待たせた」
「だ、大丈夫だよ」
「で、何の話しだ?」
「う、うん……あ、あのね……その……私ね……」
「なんだ? 言いにくい事か?」
もしかして、これは時間稼ぎでやっぱり敵が背後に!?
なんて事を思って後ろを見たが誰も居なかった。
そんな事をしている間に、彼女は覚悟を決めたのか、何かを決意したようなようすで口を開く。
「好きです……」
「スキ!? 隙だらけってことか!」
「ち、違うよ! だ、だからその……好き! 付き合ってって言ってるの!」
「突き合うだって!? 突き合いで俺と勝負するつもりか!」
「だーかーら! 好きって言ってるの! ラブの方よ!」
「ん? え? 好き? 付き合って……ま、マジで?」
「な、何度も言ってるじゃん……」
顔を真っ赤に染める彼女を見て、俺はこの子の言葉が嘘では無いことを知る。
それと同時に、俺はなんと返事をしたら良いかわからず、その場でフリーズしてしまう。
「か、考えさせて……下さい」
始めての告白に、俺はそう言うのが精一杯だった。
彼女は返事を待つことを了承してくれた。
俺はぼーっとしたまま昇降口に向かい、学と合流し、一連の出来事を説明する。
「え! やっぱり本当の告白だったの!?」
「あぁ……」
「良かったじゃん! あの子結構可愛かったし!」
「あぁ……」
「いやー、まさか悠人に先を越されるなんてなぁ……」
「あぁ……」
告白のことでいっぱいで、話しが耳に入ってこなかった。
結局その後、学とはどこにも行かずに家に帰ってきてしまった。
始めての告白で頭が混乱していたこともあり、早く帰って頭を整理させたかったからだ。
俺は家に帰り自室のベッドの上で枕を抱いて、ゴロゴロとベッドの上を転がり回る。
「むふ………むふふふ」
始めてされた告白に、思わず頬は緩んでしまう。
誰かに好きと言われることが、こんなにも嬉しいことだとは思いもしなかった。
もしかして、モテ期とか来てる?
なんて事を考えていると、脳裏にふと彩の顔が浮かんできた。
「……なんでこんな時に……」
なんで、こんな時に俺は彩の事を考えてしまうのだろうか……。
そんな事は簡単だ、嫌いだ嫌いだと口に出していくら言おうと、俺の本心は一向に変わらない、いや変わってくれない。
そうだ、俺は今でも……。
ピンポーン
「誰だよ……人が物思いにふけてる時に……」
俺は部屋を出て玄関に向かう。
今の時間、お袋は仕事で帰って来て居ない。
家には俺が一人しか居ないので、こういうときは面倒だ。
「はーい、どちらさ……ま」
「何よ、その顔」
「お、おまっ! な、何の用だよ!」
ドアを開け、俺は驚いた。
そこには私服姿の彩が居たのだ。
「ちょっと……話しあんだけど」
「は、話し? 俺は無いけど」
「良いから家に入れなさいよ! こんなとこ撮影されたら色々面倒でしょうが!」
「わ、わかってるよ!」
俺は仕方なく、彩を家に上げる。
一体こいつは何をしに来たのだろうか?
「なんだよ話しって」
ソファーに向かいあって座り、俺は彩に尋ねる。
すると彩はムスッとした表情で話し始めた。
「あんたさ……今日の放課後……告白とかされてた?」
「は!? な、なんでお前がそんな事しってるんだよ!!」
「窓から見えたのよ! 物好きも居たものねぇ……」
「う、うるせぇな! それが何か問題あんのかよ!」
「そ、それは……別に……無いけど……」
「無いなら良いだろ! 俺の問題だ!」
うーっと唸りながら頬を膨らませて俺の方を見る彩。 一体何が目的だというのだろうか?
「お前だって告白くらいされるだろ? それこそ毎日みたいに」
「ま、毎日じゃないし! まぁ、でも私可愛いからモテても仕方ないけどね!」
ムカつくなぁ~。
こちとらさっきの告白が人生初だって言うのに!
「そうだよなぁ! お前はモテるもんな! 俺みたいな不細工は一回でも告白なんてされたら、知らない相手でも嬉しいんだよ! お前みたいに適当に毎回断ってる奴にはわからないだろうけど!」
「適当に……」
「そうだろ! アイドル様はモテるもんなぁ~」
俺はいつもの喧嘩口調で彩にそう言う。
いつもこうだ、顔を合わせれば言い合いをしてしまう。
いつからこんな関係になってしまったんだろう。
昔はもっと……。
そんな事を考えていると、俺は彩の瞳から何かがこぼれ落ちるのを見た。
「え……」
彩は泣いていた。
大粒の涙を流して、俺の方を見ていた。
いつもの彩はこんな事じゃ泣かない。
何かまずい事を言った覚えも無い。
一体どうしたというのだろうか?
俺が戸惑っていると、彩は口を開いて話し始めた。
「適当じゃ……無いわよ……」
「え?」
「適当じゃないって言ってんのよ!! 全部アンタの為よ!」
彩は大声を上げながら話し始めた。
俺はそんないつもと様子の違う彩に戸惑い、何も言い返せないまま彩の話しを聞いていた。
「アンタが……アンタが言ったんじゃない!!」
「な、何をだ?」
「アンタが……アンタが……」
「お、俺が?」
俺がそう尋ねた瞬間、俺と彩の間に白く目映い光が現れた。
「な、なんだ!?」
「え、え? な、何これ!?」
光は次第に大きくなり、やがて部屋中を包んだ。
俺と彩は顔を目を瞑り、光を見ないようにする。
そして、光が消えると声が聞こえてきた。
「間に合った!」
「よかった! これでまだ希望がある!」
その声には聞き覚えがあった。
声は男と女の二人の声だった。
俺は恐る恐る目を開け、声の主を確認する。
「え……」
俺は自分の目を疑った。
俺の目の前に居るのは……。
「やぁ、はじめまして。この世界の僕」
「俺……」
まるで鏡映しのように、俺とうり二つの顔をした男が俺の前に笑顔で立っていた。
そして隣では……。
「わ、私が……もう一人?」
「初めまして、こっちの世界の私」
彩も二人になっていた。
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