第55話
「おかえりにいに。」
「おう、帰ったぞ妹よ。」
「で、何してたの?」
「え、だからキャン――」
「何してたの?」
朝8時、帰宅早々、長濱先生と別れて数秒後の俺に修羅場が襲い掛かった。
いやもう振り返るまでもなく妹の気迫というかオーラが禍々しいものであることに気付いているぞ俺は。え、なにこの修羅場。絶対先生のせいじゃん。
「ええとだな、その・・・」
「嘘言ったら晩飯抜きだかんね。」
飯当番の妹に逆らうということはすなわち餓死を意味するのではなかろうか。いやそこまでではないだろうけども。妹の美味しく暖かい料理が食べられないのは普通につらい。
「実は、えと、そう、星でも見に行きたいなーなんて思って――」
「にいにの部屋にある家具全部庭に放り投げておくね?いい?」
「いやまてまてまて!!ごめんて!!!」
厳しすぎる。ニートに対する親の仕打ちくらいひどすぎる。これでも俺だって色々頑張ってるのよ?
かといって、ホントのことをいうわけにもいかないが・・・どうしたものかねえ。
だって信じるか?後輩を怪しい奴から助けようとして刺されて記憶を失ってました。けど刺し傷はもう治ってます。なんて、どう考えてもいかれてる奴だとおもわれそうだ。
「兄妹間で隠し事はするなって言われたの忘れたの?」
不機嫌そうにエプロン姿で俺に言う妹。確かその言葉は母が出張前に言っていた気もする。隠し事は良いことには絶対ならない癖して悪いことには繋がるのだと。父が何かしでかしたのかななんて思っていたが、どうやら俺は隠し事をする側になっているようだ。
「じゃあ聞くけどさ。お前も俺に隠し事なんてないのか?」
「ないよ、学校の成績も彼氏の有無も包み隠さず伝えてますよ妹は。」
「いや彼氏の有無くらいは隠してもいいと思うんだが・・・」
「なんならスリーサイズでも教えてパシらせようと画策してるし。」
「隠し事より酷くなってないかそれ!」
隠しごとはダメでパシリはOKなんてそんな無茶苦茶あってたまるかい。
お兄ちゃんの方がデリカシーあるじゃないの!
「ともかく、妹は隠し事してないし、する気もないのに、にいにに隠し事されるのは嫌なんです~!」
「むう・・・まあ、それはそうか。」
「そうですとも。」
仕方なく納得する俺に腕を組み頷く妹。いつのまにか論破されてしまうようになるとは、時の流れ、ひいては世界の流れを感じてしまうのも仕方ない。
まあ、後先考えても仕方ねえか。事実を伝えて、信じなければそれはそれで嘘をついたことにはならないし、信じてくれたらラッキーだ。別に能力のことを伝えちゃいけないわけじゃない。先生が気にしていたのは能力のことを知った人間が社会にその情報を広めてしまう危険性だ。今どきの情報社会では、どれだけ情報を漏らさないかということが大切なのだろう。つまり、きちんと管理さえしてしまえば能力の話をすることも可能だろうというのが俺の考えだ。というかまず俺が能力のことを知っているのも管理可能だからという理由に他ならないはずだし。
「わかった。話そう。」
「お、話してくれますか。」
「ああ、だけどな、俺ら二人の秘密だ、良いな?」
「良いですとも。二人の間に隠し事は許されないけど、二人だけの秘密はどんとこいだよ。」
そう言って妹は胸をポンと右こぶしで叩いてみせた。
まあ、数分後には顎が外れたようにぽかんと口を開けた妹の間抜け顔を拝むことになるのだが。
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