第27話
「「「いってきまーす。」」」
「行ってらっしゃい~。」
妹に送り出される三人・・・ん?三人?
「いやーやっぱり圭君の妹さんって何でも出来るよね、朝ご飯も美味しかったし。」
背伸びをしながらそう言う橿原。いつものように遊びの効いたショートヘア―を揺らしている。はいはい、これは日常。
「確かにそうですね。あれだけ立派な朝食を用意していただいて感謝しかありません。またお礼に伺わせていただきます。」
顎に手を当てて、お礼の品は何が良いかと思案する佐藤・・・?????
「っておおおおおいっっ!!!!!」
橿原と佐藤が俺の叫びにビクリトする。
「え、なにどしたの?」
「突然叫ばないでください。」
二人して俺の事をおかしなやつだと思っていやがる。
「いやいや、どういうことよこれ。」
「どういうこと、といいますと?」
「なんで俺ら三人で登校してんのってことだよ!」
三人肩を並べて学校までの道のりを歩いていた。少しばかり暖かい気候になってきて、制服が夏仕様になっているにも関わらず、俺は暑苦しくも騒いでいた。
「どうしてと言われましても・・・ねえ、橿原さん。」
「そうだね・・・仕方ないよね佐藤さん。」
二人は顔を見合わせて困ったような顔をした。困ったというか俺に手を焼いているというような、やめて俺厄介な奴みたいになってるから!
「まったく理解できないんだが・・・?」
そもそも、食卓に俺、妹、橿原、佐藤の四人が居たことがおかしかったのだ。朝ご飯食べるときなんてちょっと頭ぼんやりしてるものだし、第一あんなことがあった後だったかたそこまで気が回っていなかった。
にしても、
佐藤の分まで朝ご飯を用意したのは妹だ。
「にいにのお友達さんが来てくれるなんて大歓迎ですよー」と言っていた。
どんな状況にも適応する我が妹よ・・・どうして俺にはその能力が備わっていないんだ・・・
そんなこんなで気がついたら三人で登校していたという訳である。昨日まで「対決する」とか言い合ってた二人がこうして一緒に居るのが不思議で仕方なかった。
「えーと、昨日言ってた対決とやらは?」
対決に勝った方が俺と登下校するみたいな話してなかった?あれ幻覚?
「勿論、続行中です。」
きりっとした顔で答える佐藤。朝からこんな凛々しい人を見ると自分の情けなさに少しげんなりしてしまうが。
続行中てなによ。
「佐藤さん、私負けないからね。」
間に居る俺を挟んで二人の視線がぶつかり合う。バチバチと火花を上げているような気もするが俺に飛び火してない??
「対決内容はなんなの?」
審判が対決内容を知らない時点でその対決は成立してないけどね。僕の落ち度ですね。
「「それは—―」
一瞬だけ二人の間の火花が消え、両者がこちらを見た。不覚にもドキリとする。前のめりになっていた二人から向けられるやや上向きの視線。橿原の凛々しい睫毛、澄んだ瞳、佐藤のキリっとした眉、またも澄んだ瞳。柔らかく優しいシャンプー?の香りが流れ込んでくる。なにこれ、世界が華だらけなんだが。
「「どっちが圭君/あなたをドキドキさせられるかです!」」
「・・・」
もう俺の心は白旗上げてますよ。全面降伏。二人そろってとか無理だよ。俺本来非モテよ?
「判定は圭君にしかできないから、しっかり判定してね。」
いや測定機能ぶっこわれそうなんですが。数値が異常なんですが。
「私からもよろしくお願いします。」
佐藤に関してはまだ敬語だからね!?なのにこの破壊力はやばくないか!?というか敬語のままだと一緒に登下校しないって俺が言ったの忘れたのか??それとも策略?!
頭が爆発してしまいそうなくらいのツッコミを入れた後、俺はなんとか心を落ち着けようとした。
「大丈夫?圭君、顔赤いよ?」
「ど、ドキドキしたのか?」
いやなんであなたたちも顔赤らめてんの・・・佐藤にいたっては両手を頬に当て確認しているが、恥じらう要素はないだろ・・・
俺の・・・負けだ・・・
「いや・・・その・・・」
しかし、俺がここで白旗をあげても勝負に決着はつかないだろう。俺は二人の存在にドキリとしてしまっただけだ。敗北者は俺オンリーなのだ。それでは二人は納得しないだろう。
仕方ない・・・
「まったく、そういうことなら早く言ってくれよな。自分の馬鹿さ加減にはずかしくなっちまったよ。」
現在進行形で大馬鹿ものである。見栄の張り方から勉強しろ、俺よ。
不安になりながらも両サイドの二人を見ると、
「なーんだ、そういうことかー。恥ずかしがる圭君もかわいいなー。」
「ま、紛らわしいですねっ!ま、まあそれはそれでわるくないですが・・・」
もうこの場には大馬鹿者しか居ないようだ、逆に安心する。
「ということで、これから判定していくので健闘を祈る。」
「圭君が審判なのに健闘を祈るってなんか面白いね。」
「寧ろサンドバッグみたいなものですからね。」
いや君たち酷くない!?馬鹿にしてない??同じ土俵だからね!?てか佐藤!!誰がサンドバッグだ!!!
「じゃあとりあえず・・・」
「そうですね、とりあえず・・・」
「?」
二人は息を合わせるかのように顔を見合わせたあと―
「!?」
俺の両の手は塞がれた。塞がれたというか、繋がれた。
右手に橿原の左手。左手に佐藤の右手。微妙な温度の違いとその質感に俺の鼓動が何倍にも加速する。
二人とも、俺の手よりヒヤリとしていた。
「あ・・・あ・・・」
俺は上手く声が出せない。緊張とか色々もうよくわからなくなっている。
「・・・」
「・・・」
二人も何も言わない。え?なにこれなんかの罰!?
声が出ないまま二人の顔を交互に見る。どちらも反応はなくただ前を見据えている。
でも、
たしかに二人の頬も赤くなっているのが分かった。顔に恥ずかしいと書いてあるような気もする。
・・・なるほど。
そういうことなら、俺だけがオドオドしていては二人に失礼だ。
俺は両手に繋がれた二人の手をぎゅっと強く握り返した。二人の好意に応えるべく。どちらにも優劣はない。純粋なお礼だ。
二人ともそれと同時にこちらに顔を向けた。俺はあえてどちらの顔も見なかった。見ればきっとまたドキドキしてしまう。だからここは我慢だ。
「よし、それじゃ、いこうか。」
この三人が手を繋いでる光景はある意味異様だが、この世界ではなりふり構っていられない。誰にも後悔させない、我慢させない。橿原が望んだ幸せな世界だ。皆幸せになってしかるべきだろ?
「・・・うん。」
「・・・そうですね。」
二人は尚も顔を赤らめたまま俺と同じくまた前を見据えた。
三人の足取りは確かに地を踏みしめていた。
響く無数のローファーの音が心地よい。
・・・・・ん?無数?
・・・・・・・二人じゃない・・・?
「あ、あなたが閑谷さんですね!!」
「おはよう、みんな。」
・・・・・・朱色のポニーテール少女と苦笑いの長濱先生。
・・・まーたやりましたね、長濱先生。
俺はそう思った。
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