番外編

この世界の小話

世の中には赤い糸というものがある。


それは必ずしも一対一で結ばれるものではない。


一対多も、一対無もある。


当然のように、必然のように、圧倒的にそれが運命であるのだと決めつける。


それが赤い糸。抗いようのない赤い糸。


サラリーマンがいるとする。

その男には20才になるまでたくさんの女関係があった。しかしその後は都会に出て働き三昧。30を越えて婚期をのがさまいと地元に戻ってきた彼はかつての恋人と結婚する。


赤い糸である。


結ばれてはいるけれどそれには気づけない。もしかしたら他の糸と結ばれるかもしれない。その可能性はある。誰にでも。


だが同時に、絶対に結ばれない糸もある。

一度もあったことのない人間と結ばれるにはタイミングが重要だ。10代か20代か、はたまた50代か。それは人によって違う。ただこの一点においては、橿原玲奈という女性においてだけは高校二年生の春までに出会った人物としか結ばれないと決まっていた。


なんのことはない、気まぐれで、お遊びで、短絡的な神の決定だった。その連続が今の世界のあるがままだった。



つまりこの時点において、春の第二週が終わる時点において、橿原玲奈と閑谷圭が結ばれることは叶わないことになった。


そうなった、はずだった。

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