第2話
ピピピピ、ピピピピ、カチッ。
目覚まし時計を手探りでさがす。そして、そのままの寝相で上部を叩く。デジタル文字は無機質に“午前六時”を告げていた。
「ああ無理。マジで無理。ほんと行きたくない」
今日はカーテンの隙間から差し込む日差しが弱い。眠い目を擦りながらベッドから手を伸ばし、カーテンの端を掴む。
カーテンレールにカーテンの上部が引っかかって開かない。
仕方なく起き上がり、カーテンを少し開け、外の様子を伺う。
あいにくの空模様。今にも雨が降り出しそうだ。
登校三日目、今日が入学式だ。私は未だ嘗てない緊張と不安に襲われていた。
二日間のガイダンス。その間私は周りに居た同じ学部の子と軽く話したり、一緒に学食でお昼を食べたりした。けれど、どうにもその大学の雰囲気に馴染めない。
カラフルな髪、派手なメイクを拒絶しているというよりも、その雰囲気が苦手だった。
私は気乗りしないが、体に鞭打って学校へ向かった。
入学式にもなると、会場には実に真新しい、多様なコロニーが形成されていた。
辺りを見回しながらヒソヒソと話す集団、スマホを見ながら「あれ可愛い、これ可愛い」と騒ぐ集団、周りを気にせず大声で話しながら廊下を塞いでいる集団。
みんなどこかに属していて、所属による安堵が見て取れる。
私がすぐそばを通るとたまにその中の誰かと目が合う。そしてたまに耳打ちされて笑われる。その嘲笑、どんな意味?
私はそんな集団を一人、式場に律儀に敷き詰められたパイプ椅子の一つから眺める。私のパイプ椅子は壊れかけていて、動くとギギーッという鈍い音を立ててしまう。どうやらハズレを引いてしまったようだ。
私はできるだけ動かずに、ただずっとその景色を眺めていた。
視界に見覚えのある顔が入ってくる。昨日一緒にお昼を食べた子だ。
その子は私の知らない誰か二人を連れて会場のざわめきへと姿を消してしまった。
この時、多少目が合ったと感じたのは私だけだったのだろうか。
その瞬間、私は声を出そうとした。
パイプ椅子が音を立てた。
しかし声を出せなかった。
喉を振るわせようとしたが、肺から上がってくる空気を途中で止め、放たれるはずだった言葉ごと自ら飲み込んでしまっていた。
私は一人が好きなのではない。本当は友達といたい。
友達といることは楽しいし、ある程度のコミュニケーション能力はあるから、私はすぐに友達の輪に打ち解けることができる。
けれど、この二十年弱の人生において、私は自分の立ち位置を心得てしまった。打ち溶けすぎてしまうのか、私は“居ても居なくても変わらない”のだ。
腕時計を見つめる。式まであと十五分。
私は脳内に流れている雑踏というBGMのボリュームを下げ、入学式で配布された資料を一人でパラパラと眺めることにした。
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