40 混乱の渦中
夜子さんとお母さんが立ち去った後、入れ替わるようにしてシオンさんとネネさんがやって来た。
彼女たちはクリアちゃんが外で暴れまわっていた際、それの対処に当たっていたらしい。
他の魔女狩りを連れて駆けつけてきた彼女たちに、再会の喜びもそこそこに取り敢えずの状況を説明すると、二人はこの場の後処理を請け負ってくれた。
素早く周りの人たちに指示を出し、荒れた部屋への対応や、状況確認をさせて。
ロード・デュークスのことも彼の部下たちに任せて、私たちは二人に連れられて屋敷を出た。
屋敷の外、魔女狩り本拠地の中心地の広場は、酷く荒れ果てていた。
青々と生い茂っていた芝生はあらかた焼き払われていて、所々が割れたり抉れたりしている。
火の手は既に消し止められているようだけれど、クリアちゃんがここで大立ち回りを演じた形跡は、ありありと刻まれていた。
魔女の魔法は、魔法使いには通用しない。それは覆しようのない、どうしようもない前提条件。
だからこそ、こと戦闘において魔女は圧倒的に不利となる。けれどそれは、魔女が絶対に敵わない理由にはならない。
魔法を前提とするから、その実力差は戦局に大きく影響を及ぼすけれど。
でもそれは、使いようや立ち回りようによって、いくらでも補える部分なんだ。
クリアちゃんは飽くまで魔女で、けれどそれでもロード・デュークスを倒し、そして魔女狩りの本拠地で好き勝手暴れまわって見せた。
そこから見えるものは、彼女の圧倒的なポテンシャルだ。
魔法という技術が魔法使いに及ばないものだとしても、彼女はそれをものともしない地の実力を持っている。
それは戦闘のセンスなのか、それとももっと卓越した何かなのか。それはわからない。
けれどいずれにしても、彼女は多くの魔女狩りが、
彼女が一人で滅茶苦茶にした、この場所とそして状況を見て、私はそれを実感した。
夜子さんとお母さんは、クリアちゃんを独自にどうするかすべく、どこかに行ってしまった。
話したいことは、聞きたいことは沢山あったのに、結局まともに言葉を交わすことすらできなかった。
どうしてだろう。二人は決して、私を敵視している節はなかったのに。
ジャバウォックを止めたいという目的が同じ以上、力を合わせた方がいいはずなのに。
そう思うけれど、でもそれは違うのだと、夜子さんは確かに口にした。
彼女たちの思惑は定かではないけれど、でもジャバウォックを止めたその先に見るものは、私とは違うのだろう。
そしてその為にもう手段を選んでいられない以上、私と肩を並べることはできないと、そう言っていた。
夜子さんとお母さん。ドルミーレの親友らしい二人は、一体何を抱いているのか。
お母さんのことだけでも私の心はいっぱいいっぱいなのに、夜子さんまでも私の理解の外に出てしまった。
向こうの世界は、今どうなっているんだろう。あちらのみんなは、頑張ってくれている千鳥ちゃんやカノンさん、まくらちゃんは無事なのかな。
あちらの世界にいるはずだった夜子さんがこちらにいることで、不安や心配はどっと増えた。
二人は敵ではないのだろうけれど、でも味方とは言い切れない。
だからこそ二人は自ら私の元を離れて、独自に動こうとしている。
だから私も、自分の力で現状の解決に向けて行動を起こさなきゃいけないんだ。
二人にちゃんと向き合って、ちゃんと全てを聞き出す為にも。
彼女たちのペースや思惑に流されることなく、自分の足で前に進んでいかないといけない。
そうしなければきっと、私は自分が守りたいものを守りきれないだろうから。
ただ、その為には私一人の力ではどうにもならない。
どんなに強大な力を持っていても、まだまだ未熟な今の私では、できることに限界がある。
それに私には幸い、力を貸してくれる人が沢山いるのだから。一人で無理をする必要はない。
だから私は、駆けつけてくれたシオンさんとネネさんに、魔女狩りの助力をお願いした。
クリアちゃんは私の友達だし、彼女が私のためにとことを起こそうとしている以上、私が対処すべきことではあるけれど。
狂った魔女と称される彼女のことは、魔女狩りたちの方が詳しいだろうし、それに彼らはこの国を守る人たちだから。
その力は、世界を脅かそうとしているクリアちゃんを打倒するのに、絶対に必要だと思ったから。
そんな私の一方的なお願いに、シオンさんとネネさんはもちろんだと快諾してくれた。
「────私たちとしては是非もないのですが、しかし一応、
荒れ果てた広場に目を向けながら、シオンさんは渋い顔した。
多くの魔女狩りたちは今、襲撃を受けたこの地の修繕や、負傷者の対応に追われていて慌ただしい。
「正直、今の魔女狩りは統制は不安定です。この地が襲撃を受けて、混乱の最中というのもありますが……ロード・デュークスは倒れ、ロード・ケインはどうやら連絡が取れない様子。ライト様は独自に動かれていますし……残るはロード・スクルドのみ。しかし彼も、この事態に顔を出さなかった。どれ程お力になれるか……」
「無理は承知の上です。そもそも魔女狩りと私は、ロード・デュークスを抜きにしても良い関係とは言えない。それでも、この事態をどうにかしないといけないんです。ダメ元でも構いません。ロード・スクルドしかいないのなら、彼と繋いでください」
私の意を決した懇願に、シオンさんは「そうですね」と頷いた。
魔女狩りの思惑が、ロード・スクルドの思惑がどんなものであっても、今は力を貸して貰わないわけにはいかない。
どんな思想もどんな目的も、この世界があってこそ、人々が生きていればこそなんだから。
「でもアリス、大丈夫か? ロード・スクルドとは、ついこの間やり合ったばっかだろう」
レオが心配そうにそう言って、顔を覗かせてきた。
確かにそれはもっともなのだけれど、私は大丈夫だと頷いた。
「彼はこの間、もう私に手出しをしないと約束してくれたし。それに昨日も、私のお願いを聞き入れて戦いの収束に力を貸してくれた。確かに思うところはあるけど、でも私は、ロード・スクルドはちゃんと考えられる人だって思うから」
ロード・スクルドは毅然とした人で、魔法使いや魔女狩りとしての使命を全うするべきと考えている人だろうけれど。
でも彼は、何が正しいのか、何をするべきなのかをちゃんと判断できる人だと思う。
確かに一度は刃を交えた人だし、私は彼のことをよく知っているわけではないけれど。
それでも、二度の邂逅の中で、私はそう感じ取ったから。
私がそう伝えると、レオは「お前がそれでいいなら」と頷いてくれた。
彼は魔女狩り側だから本来引っかかるところはないだろうけれど、私を気遣ってくれてのことだ。
その気持ちに感謝を込めて、笑顔を向ける。
「よし、じゃあロード・スクルドのとこ、突撃してみようか」
そんな私たちを見て、ネネさんがのっそりと声を上げた。
そのテンションはいつも通り低めだけれど、意気が低いわけではないようだ。
シオンさんの腕をグイと引いて、荒れ果てた広場に向けて歩き出す。
少し思い詰めているような、難しい顔をしているけれど、それはこの大変な状況に向けてだろうか。
それとも、因縁があるというクリアちゃんの凶行に対して、思うところがあるのか。
どちらにしても、ネネさんも、それにシオンさんだって、この事態を解決させたいのは同じはずだ。
魔女狩りに組織的な助力を請えなくても、二人はきっと力を貸してくれるだろう。
そもそも二人は、ロード・ホーリーの一派は、魔法使いと魔女の争いをなくし、平和を願う人たちなんだから。
先を行く二人の背中を、私はレオとアリアと共に追いかけた。
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