60 妖精の喧嘩と始まりの力11
びっくりした顔のレオとアリア。
そんな二人とは『たいしょうてき』に、ゆったりとした顔をしているソルベちゃん。
二人がどうしてそんなに食いついてきたのかわからないって顔で、ふんわりと首をかしげた。
「あれ、僕今何か変なこと言った?」
「変、つーかよ……。その、昔『魔女ウィルス』に感染した妖精がいたっていうのは、本当なのか?」
レオが聞くと、ソルベちゃんはあぁ〜とのんきな声を出した。
「昔流れた噂話みたいな感じだから、確証はないんだ、ごめん。ただその噂話があって、妖精にも感染するかもしれないから『まほうつかいの国』から撤退した方がいいって話にはなったよ」
「じゃあ実際に感染したヒトを知ってるわけじゃないの?」
「そうだね。確実な話を聞いたことはないよ。ただ、妖精はさっき言った通りだから、もし誰かが感染したら大騒ぎなんだよねぇ。繋がりを断ち切るって相当苦しいみたいだから、僕は絶対したくないよ〜」
ケガしたり具合が悪くなっちゃうだけでも周りのみんなにそれが伝わる妖精さん。
そんな妖精さんが『魔女ウィルス』に感染しちゃったら、きっとあっという間にみんなが感染しちゃって大変、ってことなんだ。
でも、妖精で魔女ってなんだかすごいごちゃごちゃしてる感じがするよ。
「そうなんだぁ。なんだかわたし、『魔女ウィルス』って国内の、人間の問題だって勝手に思ってたけど、そうとも限らないんだよね……」
「そうだな。他国民の魔女って話を聞いたことがなかったから、ぜんぜん気にしてなかったぜ。感染が国の外にまでいったら、この国の魔女狩りだけで対処できんのか……?」
レオもアリアもむずかしい顔をしてうなった。
二人はちょこちょここんな風に『しんけん』な、すこし大人っぽい顔をする。
わたしと年はそんなに変わらないのに、色んなことを考えて、むずかしい話もする。
そういうところを見ると、二人は魔法使いで色んな勉強をして、わたしよりもずっと大人なんだなぁって思う。
そんな風に考え込む二人を見て、ソルベちゃんはあわてて口を開いた。
「ほらほら、また難しい話になっちゃったよ〜。もっと楽しいことをしよう! そうだ、一回村を出て林の方に行こうよ。日が暮れてくるとオレンジ色にギラギラして綺麗なんだよー!」
「わー! それ見てみたいよ!」
全身を使ってすごいよアピールをするソルベちゃん。
あの氷でできた木の林が夕陽に照らされる景色を想像したら、なんだかとってもわくわくしてきた。
わたしがウキウキしてると、レオとアリアは小さくため息をついてからニッコリと優しく笑った。
ちゃんと考えなきゃいけないこともあるのはわかってるけど。
でもわたしは、二人と楽しく冒険がしたい。
せっかくこの世界を旅して色んな場所に来てるんだから、三人で楽しい『けいけん』をたくさんしたいもん。
いつも二人に頼っりぱなしのわたしは、二人と一緒にむずかしいことを考えてあげられないわたしは、せめて二人をなるべく笑わせてあげたい。
つらい時もかなしい時も、こまった時も。わたしは、できるだけ楽しくなるようにしてあげたいんだ。
「こっちだよー」って、まるでスケートをするみたいに氷の上をすべっていくソルベちゃん。
それを追っかけるために、わたしは二人を引っぱった。
二人とももうむずかしい顔はしてなくて、「しょーがないな」って顔で、でも笑いながらついてきてくれる。
スルスルと氷の上をすべっていくソルベちゃんの後を追っかける。
アリアが「すべるすべる」ってあたふたするから、レオと一緒にしっかり支えながら、すこし早歩きで村の外まで向かいました。
ソルベちゃんはまるでフィギアスケートの選手みたいに、氷の上を『ゆうが』に、おどるようにすべっていた。
他の妖精さんの間をぬって、スルスルくるくる。
ほんわか青く光るその体と、ひらひらしている青いワンピースが、ソルベちゃんの姿をキラキラかがやかせていてとってもキレイだった。
こおった湖の上、氷の妖精さんたちの村を出て、それをかこむ氷の木の林までやってきた。
わたしたちが最初にここにきた時から時間がたっていて、お日様の角度がだいぶ下がってきてる。
透き通った氷の木を照らしてる太陽の光は赤くオレンジ色になってきていて、その濃い色を氷がテラテラと反射していた。
さわやかですずやかな、昼間のスカッとした景色もキレイだったけど、ジワーッと赤い色が『しんとう』してかがやいてる重みのある景色もとってもキレイだった。
「綺麗でしょ? この林は時間や時期によって色んな風に輝くから、いつ見ても飽きないんだよ〜!」
ソルベちゃんはわたしたちの前に立って、腰に手を当てながらえっへんと得意げに言った。
「うん、すっごいキレイ! 透明だった氷の林がこんなに真っ赤にキラキラするなんて。なんだか、レオの頭みたい!」
わたしが思ったことをそのまま言うと、アリアとソルベちゃんがケラケラと笑った。
レオはすこしだけブスッといじけたような顔をしたけど、男の子にしては長いその髪を自分でハラハラなびかせて、「確かに」と吹き出した。
それがなんだかおかしくて、わたしたちは四人で顔を見合わせて笑った。
村の外れ、林の前でギラギラ赤くかがやく景色にかこまれながら、わたしたちは思う存分楽しく笑ったのでした。
さっきまで聞いた『こみいった』話とか、色々むずかしい『りくつ』と事情とか。
そういうことを一瞬忘れて、わたしたちはただ今が楽しくて笑った。
そんな時。
ドゴーンと身体中が震えるような大きな音がひびいて、燃える山から炎がまた噴き出した。
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