48 喋る動物と昔話15
「今の……アリスが、やったんだよね……?」
しばらくシーンとしてから、アリアがポツリと言った。
つないでいる手は、どっちのかわからないくらい汗でびしょびしょで。
それでもアリアは、ツルツルぬるぬるすべる手を、ぎゅっとにぎってくれた。
「すごい……すごいよ今の……! 結界かな? ううん、それよりももっとすごいものだと思う。アリスにはやっぱり、すごい力があるんだよ!」
『こうふん』気味なアリアは、そのままわたしの腕をぎゅうぎゅうと抱きしめて言った。
わたしはまだすこし『こんらん』してて、まだ何が何だか理解しきれてなかった。
今起きたことを自分がやったんだって、なんとなくわかるんだけど。でも、まだよくわかってない。
高い声を上げるアリアと同じように、反対側にいるレオも『こうふん』気味にわたしを見てきたから、やっぱりわたしがやったんだなって『なっとく』できた。
「アリス、お前やっぱスゲーよ! 大人の魔法使いを、女王陛下の兵隊をぶっ飛ばしちまうなんてな! でも、一体何をどうやったんだ……?」
わたしはただ、首を横に振ることしかできなかった。
わたしがやった、それはまちがいじゃないと思うけど。
でもわたしはただ夢中で、あの人たちに出て行ってほしいっておもっただけだから。
「わかんない。わかんないんだ。ただ、胸の奥がとっても熱くなって。それで、なんだかよくわかんないけど、とっても力があふれてきた気がして。なんでもできる気がしたから、わたしはただ、あの人たちにここにいて欲しくないって思って、それで……」
自分でもよくわからないことを説明してると、頭がこんがらがりそうだった。
ただ、そうやって声に出しているうちに、ごちゃごちゃしていた気持ちが少しずつ落ち着いてきた。
そこでわたしは、あの時頭の中にひびいた女の人の声を思い出した。
聞いたこともない、静かで重い、冷たい声。
あの人の声が聞こえてから、もっと胸が熱くなって力があふれた気がしたんだ。
やり方なんてわからないのに、でも自分の気持ちをぶつければいいって、そうわかったんだ。
あの女の人の声が、わたしにある力と関係してるのかな……。
『こうふん』してわきゃわきゃ話しかけてくる二人と、頭をぐるぐる回して話している時。
ココノツさんがゆっくりと近づいてきて、そのシュッとしたキツネさんの手をわたしの頭の上に置いた。
「今のは恐らく、結界とはまた違う、更に上位の制限をかける力。己が領分を制定し、不認可の者を拒絶する力。それはかつて、ドルミーレが国の一角に自身の領域を作ったものと、同種のものでしょうねぇ」
「『りょうぶん』……? 『りょういき』……?」
わたしを見下ろすココノツさんの顔はやわらかで、でもうっすら細めた目は、わたしの奥底を覗き込むようにどこかするどかった。
むずかしい言葉も、でもやわらかい声で言ってくれるから耳に残った。
「わちきは魔法のことには明るくはないけれど。
「…………?」
ココノツさんの言うことはむずかしくて、あんまり頭に入ってこなかった。
でもやっぱり、わたしの力がこの町を守ったんだってことだけは、なんとなくわかった。
そんなわたしの代わりに、アリアがびっくりとした声を上げた。
「空間を限定的に遮断する結界じゃなくて、領域の制定なんて、それこそ伝説級の魔法だよ! だって、この世界の中に、自分だけの空間を、新しい世界を創り出すようなものだもん! そんなこと、アリスができるなんて……!」
「ただ強力な魔法が使えるだけでは、ないんでしょうねぇ。やはりドルミーレの匂いを持つ者。何か繋がりがあり、全く別の、特殊な力を持っているのかもしれないねぇ」
事の重大さが、わたしにはよくわからなかったけど。
でもとくにかく、わたしにはとってもすごい力があることはわかった。
そして、それでこの町を守ることができたってことも。
わたしの力のこと。それにそのドルミーレって人と何か関係があるのかってこと。
気になることはいろいろあるけど。でもとりあえず、この町と、ここにいるヒトたちが無事でよかった。
「まぁとにかく、よくわかんねぇけど全員無事でよかったじゃねぇか。アリスのスゲー力で、アイツらに何にもされなかったんだからな」
そんなわたしの気持ちを代わりに言うみたいに、レオはそう言って肩を組みながらわたしの頭をガシガシっとなでてきた。
「無茶ばっかするお前だけど、でもスゲーやつだ。えらいぞ、アリス」
「……ありがとう、レオ」
ほめられるのは、やっぱりうれしかった。
自分ではよくわかってないことばっかりで、むずかしいことにもぜんぜん付いていけないけど。
でもみんなが無事だったことはうれしいし、それを手放しでほめてもらえるのもうれしい。
レオがわたしにガシガシしてるのを見て、アリアもあわててわたしに全身で抱きついてきて、三人でぎゅうぎゅうともみくちゃになった。
そんなことをしてたら、いつのまにかみんなでニコニコ笑ってて、そのうち声が出てきた。
たくさんこわかったけど、その分良かったって気持ちもたくさんになった。
こわいことも、友達が一緒にいてくれたら乗り越えられる。
友達がくれる勇気が、友達とつながる心が、わたしに力を貸してくれたんだ。
わたしにある特別な力のことはまだよくわからないけど。
でも、友達がいてくれるから、二人がいてくれるからこそ、わたしは頑張れるんだって、それだけはよくわかるんだ。
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