47 喋る動物と昔話14
許せない。そんなの、わたしはいやだ。
何にも悪いことをしていない人たちが、ひどいめに合うところなんて、わたしは見てられない。
だから私は心の底から叫んだんだ。
それはいやだって。そんなことさせないって。
子供の小さな声。大人たちには聞こえないかもしれない。
それでもわたしはそう思ったから。
自分の思ったことは、感じたことは、例えにどんなに小さくたって、声をあげなきゃ始まらないんだから。
だからわたしは、わたしにできる精一杯の声を上げた。
その時────
「なんだ! 何事だ!」
わたしの胸のずっと奥、心の奥底がぶわっと熱くなったかと思うと、兵隊さんたちがいっせいにあわてた声をあげた。
この胸の熱さ、感覚をわたしは知ってる。
前に女王様からにげる時、女王様が炎の塊を投げつけてきた時と同じだ。
あの時と同じように、胸の奥がゴウゴウと熱くなって、心が燃えてるみたいに感情があふれた。
なんて言えばいいんだろう。よくわからないけど、でもこれは、力があふれてくる、そんな感じなのかもしれない。
兵隊さんたちがあわてだしたのは、みんなが持っているタイマツの火がいっせいに消えたからだった。
お屋敷の前を照らしていたメラメラとした明かりが急になくなって、チョウチンのぼんやりとした光だけになる。
これは、わたしがやったのかな。
あの時と同じような胸の熱さと、急に起きた不思議な『げんしょう』。
わたしの中にある何か特別な力が、これを起こしたのかもしれない。
そう、思った時だった。
『────────うるさいわね────────』
とっても静かで重苦しくて、気怠そうな声が、頭の中で小さく響いた。
『────やかましいわ。侵されたくないのなら、自己を主張すればいい。権利を主張すればいい。自由を得たいのならば、自らの手でその証を示すしかない。守りたいものは、自らの手で囲えばいい────』
「え? なに? 誰なの?」
初めて聞く、とっても眠たそうな女の人の声。
ぞくぞくするようなこわさと、でもどこかなつかしい気がする、そんな声。
どこから聞こえてくるのか、だれなのか。
わたしは目の前のことを忘れてキョロキョロしてしまった。
けど、もちろんその声の人はどこにもいない。
『────うるさいわ。夢の中まで響いてくる。私はゆっくり、眠っていたいのよ────』
声はまるで独り言をつぶやいてるみたいに、わたしとお話をしているつもりはないみたいだった。
だれだかわからない、わたしの頭の中にひびく声。
わけがわからなかったけど、でもどうしてだかその言葉はストンと受け入れられた。
そうだ。そうだよ。自分がしたいこと、いやなことは言わないと。
守りたい人、守りたい場所は、自分がなんとかしなくちゃ。
わがままで『おうぼう』な女王様の好きなようにされないためには、自分たちの自由を声に出さないといけないんだ。
「貴様! 貴様が何かしたのか! ……ええい、慌てるな! さっさと火を放て!」
急に頭がスッキリして、それと同時にナゾの声は急に聞こえなくなった。
その代わり、目の前のことが勢いよく戻ってきた。
慌てふためく兵隊さんたちと、わたしに向かって怒鳴る隊長さん。
それに、隣のレオとアリアがわたしを心配そうに見つめてた。
「アリス……アリス! 大丈夫!? わたしの声聞こえてる!?」
「おいアリス! しっかりしろ! そのすげー力にのまれんな!」
二人の声がよく聞こえる。
頭の中の声は聞こえなくなったけど、胸の熱さはまだそのまま。むしろもっと熱くなってきたかもしれない。
わたしはその熱さを強く感じながら、二人の顔を見た。
「……うん。ごめんね、大丈夫。なんか今、すっごくふわふわした気分だけど。今ならなんだか、なんでもできそうな気がするんだ……!」
胸の熱さが、心の奥からわいてくる力が、なんでもできるって言ってる。
わたしにできないことなんてない。だから、自分の気持ちを思うままにぶつけろって、そう言ってる気がする。
心配そうにわたしを見つめる二人に見守られながら、わたしは一歩前に踏み出した。
隊長さんはわたしをすこし『けいかい』して見ながら、周りの兵隊さんたちに怒鳴ってる。
そしてだんだんとガヤガヤしていた兵隊さんたちが落ち着いてきて、火の消えたタイマツをいろんな方向に向けだした。
タイマツの先の方が赤く光出して、魔法でそこから火が飛び出しそうな気が、わたしにはした。
「だから、ダメ!!!」
とっさに叫ぶ。
すると、タイマツの赤い光がパンと消えて、さらにはタイマツそのものが兵隊さんたちの手からスポンと抜けた。
まるでだれかが見えない糸でひっぱったみたいに、ポンポンと手から飛んでいく。
兵隊さんたちはあわてたけど、でもすぐにカラになった手を伸ばして、今度は手から火を出そうとした。
でもその魔法も、わたしがダメと叫ぶと、手先から飛び出す前にパンはじけて消えてしまう。
それを見た隊長さんは顔を青くして、それからすぐにわたしのことをにらんだ。
「貴様、一体なんなんだ。魔力も感じないただの子供だったはずだ。だというのに、今の貴様のその力はなんだ! 何故、貴様のような子供が、我らの魔法に干渉できる!」
「しらない! わなんないよ! でも今はそんなことどうでもいい。この町は燃やさせない。この町のヒトたちは傷つけさせない。だってここは、わたしの友達たちがいる場所だから。だから、ここから出てって! 出てってよ!!!」
隊長さんは声だけ強気で、でもおびえた感じでジリっと後ろに退がった。
わたしはそんな隊長さんに向かって、ただただ自分の気持ち叫んだ。
ここはたくさんのいいヒトたちがいる、とってもいい町だから。
ここに、わがままな女王様の『おうぼう』な兵隊さんたちなんていて欲しくない。
わたしがそう強く叫ぶと、胸の中で燃えていた熱い力がばーんとはじけた。
そのあと、わたしを中心に何か大きな力が周りにぶわーんと広がっていくのがわかった。
強い風のような、見えない波のような力が周りに広がる。
それが兵隊さんたちにぶつかると、兵隊さんたちはまるで大波に飲み込まれたみたいに吹き飛ばされて宙にポーンと投げ出された。
その力の波は何回もわたしから出て、兵隊さんたちはそれが当たるたびにどんどん遠くに飛ばされていく。
わたしの目の前にいた隊長さんも、お屋敷を取り囲んでいたたくさんの兵隊さんたちも、みんなみんな。
悲鳴を上げながら、力の波に飲まれて遠く遠くに飛ばされていってしまった。
でも、わたしの隣にいるレオとアリアは平気だった。
わたしの手をにぎったまま、さっきまで同じように一緒にいてくれてる。
それにわたしたちの前でうずくまってるワンダフルさんも、後ろにいるココノツさんとその家来さんたちも平気だった。
その力の波は、兵隊さんたちだけを遠くに押し飛ばしてしまった。
わたしがいて欲しくないと思った人たちだけを、どこか遠くにやっちゃったんだ。
押し飛ばされてしまった兵隊さんたちが遠くにいって見えなくなって、お屋敷の周り、それに町全体が静かになる。
そしてやっと、わたしの胸の熱さはおさまって、『こうふん』してふわふわしてた気持ちが落ち着いてきた。
そこでやっとわたしは、自分が何かすごいことをやったんだって気付いた。
気持ちのままに勢いで叫んで、ただ無我夢中だったけど。
今起きたことは、わたしが自分でやったんだって、気付いた。
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