46 喋る動物と昔話13
たくさんの兵隊さんたちの目。ショボンと下を向いていたワンダフルさんの目。
そして勢いよくこっちに振り返ったココノツさんの目が、いっせいにわたしたちに向いた。
大勢の人に一気に見つめられてどきまぎしちゃったけれど、わたしは二人の手をにぎって勇気を出して、もう一度声を出した。
「わたしたちはここだよ! 他の人たちは、なんにも関係ない!」
「き、貴様は……!」
兵隊さんたちはわいわいガヤガヤ、わたしたちを見て声を上げた。
そんな中で隊長さんは、びっくりしながらわたしたちを見つめる。
「貴様らは、以前女王陛下に楯突いた子供らか! そうか、貴様らが『禁域』に立ち入ろうとしている子供か!」
太い声で怒鳴る隊長さん。
わたしはビクッとちぢこまってしまいそうになったけど、でも頑張ってガマンした。
レオとアリアがいてくれる。こわいものなんて、ない。
「
「ごめんなさいココノツさん。でも、迷惑ばっかりもかけてられないから」
「わっぱが何を言うてるのです。貴奴らの横暴などに、屈せずともよいのです。
ヒヤヒヤした顔で、でもわたしたちを心配してくれている優しい声で、ココノツさんはなだめるように言ってきた。
わたしたちのことを信じてくれて、守ってくれようとしてるんだ。
それはとってもうれしいけど、でもそれでこの町のヒトが大変な目にあっちゃうのはいやだから。
「ありがとうココノツさん。でもわたし、女王様のこと怒らせちゃったの。ひどいことをする女王様に文句言っちゃって、殺されそうになっちゃった。だからね、わたしは悪い子なんだよ」
「なんとまぁ豪胆な」
ココノツさんは本当にびっくりしたみたいで、着物の袖で口元を隠しながらも、目をハッと見開いた。
それからすぐにふふっとおかしそうに笑って、わたしたちをぐるっと見回した。
「なるほどなぁ。それで女王から逃げながら西へ。
「…………?」
なんだか一人で楽しそうなココノツさん。
すこし一人で笑ってから、うんうんと『なっとく』するようにうなずいた。
「
「ありがとうココノツさん。優しくしてもらったからこそ、わたしはこの町のみんなに迷惑をかけたくないの」
ココノツさんはわたしのことをすこしさみしそうに見つめながら、一歩後ろに退がった。
そうして開けた門を、わたしたち三人はくぐる。
門の前を取り囲む兵隊たちと、その前に出ている隊長さんたちが、わたしたちのことをまじまじと見てくる。
「観念したか。まぁそうだろう。この国で女王陛下に逆らうことは大罪。楯突いた悪逆も、禁忌を犯そうという企みも、決して許されるものではない。貴様らで逃げ切れるものでもないのだからな」
「わたしたちは、ちゃんと出てきたよ。この町のヒトたちはなんにも関係ない。ココノツさんも、わたしたちの事情はなんにも知らなかったんだから。だから、この町のヒトには何にもしないで」
えらそうにふんぞりかえる隊長さんは、わたしたちのことを見下ろしてハハハと笑った。
たくさんの大人の人たちに囲まれて、わたしたちは手をぎゅっとにぎり合ってこわさをガマンした。
震えそうになるのもガマンしながら、なんとかお願いを言うと、隊長さんはさらに笑った。
「そううまくことが運ぶものか。この町の者どもは、謀反者を匿った共犯者である。元々国外の者ども。我が『まほうつかいの国』の末端を汚す者たち。大罪人である貴様らを囲っていたこやつらも同罪だ。よって、この町を焼き討ち、共謀人どもを処罰せよとの、女王陛下のお達しだ!」
「そんな! そんなのおかしい! 話が違うよ! わたしたちが出てくれば、何もしないって言ってたのに!」
「言葉も正しく通じるか定かではない獣共に、なぜ真実を口にする必要がある! 恨むのなら、罪を犯した我が身を恨むんだな!」
隊長さんが言ったあんまりにもめちゃくちゃな話を、わたしはまったく『なっとく』できなかった。
わたしが反論しようと身を乗り出した時、隊長さんの脇にいたワンダフルさんが大きな声を出した。
「それは、それはあんまりですぞ! 私は、お役に立ったではないですか! この町の者は、誰一人として反逆の意思はございません! 我らは、私はキチンとご報告をし、お国に貢献したではありませんか!」
「ええい鬱陶しい! 立場を弁えろ立場を! 女王陛下は他種のものがお嫌いだ。今まで住うことを許されていただけでもありがたく思うがいい! 反逆者を迎え入れ、囲っていたことは事実ではないか。大人しく罪を認め、その報いを受けるがいい」
「そんな……!」
すがりつくワンダフルさんを、隊長さんは乱暴に振りほどいで怒鳴り散らした。
ワンダフルさんは地面にゴロンと投げ出されながら、弱々しい泣きそうな声をこぼした。
ワンダフルさんはただ、この町のヒトたちがもっといい暮らしができるようにしたかっただけなのに。
何にも悪いことはしてないのに、『どうぶつの国』のヒトたちだからって、こんなひどいことをされるなんて。
「
「さてな。我らは女王陛下の命を受け、罪人の処罰に赴いたまで」
「……ワンダフル。
「ココノツ様……」
ひどい。こんなのひどい。
もしわたしたちがいなくても、どっちにしろこの町を燃やしてしまおうとしてたんだ。
『どうぶつの国』から来たヒトたち。ただそれだけの理由で。
「めちゃくちゃな野郎どもだ。どの道皆殺しとか、笑えねぇよ」
レオがわたしの手を握りながら、グッとこわい、怒った顔で言った。
「女王陛下は横暴だって、わがままだって知ってたけどよ。でも、ここまでめちゃくちゃかよ……」
「うん。『どうぶつの国』のヒトたちが、他の国の人たちが、こんなに差別されてるなんて知らなかった。こんなのあんまりだよ」
アリアはわたしの腕に抱きつくようにしながら、震える声で言った。
泣きそうな、でもとっても怒ってるのをガマンしてる声。
二人ともわたしと同じように、このあまりにも『りふじん』なことに怒ってた。
「さぁ覚悟しろ、忌まわしき獣共! 罪人は等しく焼き討ちだ。その罪を詫びて死ぬがいい!」
隊長さんが号令をかけると、周りの兵隊さんたちがタイマツを掲げた。
ジャングルの中にあるこの町は、木でできてるものもたくさんある。
火なんてつけられたら、あっという間に町中が火事になっちゃうよ。
そんなのいやだ。
わたしはこの町、好きだもん。
この町のヒトたちが好きだもん。
たくさんお話して、優しくしてもらって、遊んでもらった。
この町にはわたしたちの友達がいる。
良くしてくれたヒトたちがたくさんいる。
そんな町を、ぜったい燃やさせるもんか……!
「そんなことさせない。ぜったい、させないんだから!」
わたしは二人の手をにぎりながら、声の限りに叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます