42 喋る動物と昔話9
レオもアリアもそのことはもちろん知らなかったみたいで、わたしよりもとってもびっくりした顔していた。
けれどそんな中でもレオはすぐに気持ちを切り替えて、わたしとアリアをぐっと見た。
「この国の王族のことは驚いたけどよ、でも本題はそれじゃねぇだろ? オレらはまだ、一番大事なことを聞いてねぇ」
「大事なことって?」
「バカ。そのドルミーレとお前の関係だろうが」
わたしがきょとんと首をかしげると、レオをはキッと目をつり上げた。
おっとそうだった。すっかり忘れてたよ。
ドルミーレのお話と、女王様のびっくりする事実で頭がいっぱいになちゃってた。
そもそも、そいうお話だったんだ。
「それで、実際のところどうなんだ? アリスは、その大昔の『始まりの魔女』と、一体何の関係があるんだよ」
わたしを見てため息をつきながら、レオはココノツさんに質問した。
ココノツさんはキセルをクルクル指先で回しながら、「そうねぇ」とのんびりした声を上げた。
「正直なところを言えば、わちきにもわからないの」
「はぁ!? だってアンタ、アリスの力について何か知ってんじゃないのかよ!」
「わちきは何にも知りませんよ。だからわちきは最初に尋ねたでしょう。何者か、と。わちきにわかったのは、ドルミーレにとても似た匂いがするっていうことだけ」
レオが声を強めてもまったく動じないココノツさんは、ゆっくりとした動きでキセルを脇にあるツボみたいなもののフチにカンカンと叩いた。
キセルから燃えつきた灰がパラパラ落ちて、カラになったそれはツボの上にそっと置かれた。
「その匂いの元が何なのかは、わちきにもわからない。ただ彼女と似た匂いがするということは、何かしらの
「ドルミーレ────『始まりの魔女』に
「さぁ。わちきの領分ではないからなんとも。それについてはお
アリアの質問に、ココノツさんはあっさりと首を横に振った。
でも優しく、そしてやわらかく微笑みかけきて、アリアはすこし顔を赤くした。
「わたしには、アリスから魔女の気配は感じられません。それどころか、魔力もなにも。でも一回、一度だけ何かすごい力を使った時は、確かに大きなものを感じたんです。だたそれが何なのかは……」
「ふーん、不思議ねぇ。わちきとしては、ドルミーレと同じ匂いのするわっぱが、ただの普通の人間だとは思えないけどねぇ。でも確かに、見たところは何の変哲もないわっぱなのよねぇ」
アリアはわたしにぴったりくっついて、すこし不安そうに言った。
やっぱりわたしが魔女だったらイヤ、なんだろうなぁ。
しかもわたしがその『始まりの魔女』っていうのに関係があったとしたら、魔法使いの二人にとって、わたしはとてもよくない子になっちゃう。
今聞いた話は、わたし自身にはイマイチピンとこなかった。
ただの昔話で、人の話っていうふうにしか思えない。
それがわたしに関係があることだとは、ぜんぜん思えなかった。
でも、ドルミーレって名前を聞くと、なんだかモヤモヤした気持ちになる。
何にも関係ないはずなのに、何だかなつかしいような、気になるような。
この気持ちは、初めて神殿に行った時と同じ。
わたしが知らないだけで、わたしはドルミーレと何か関係があるのかなぁ。
でも、わたしは元々この世界の子じゃないし、普通の世界の普通の町で、普通のお母さんから産まれた普通の女の子なんだけど。
だから、どうしても心当たりがなかった。
この国ではとっても嫌われてるっていうドルミーレ。
嫌われすぎてなかったことにされちゃって、だからだれも知らなくて。
そんな人と本当に関係があるとしたら、わたしはどうなっちゃうんだろう。
そう考えるとなんだかとってもこわくなちゃって、気がつくとすこし体がふるえてた。
「大丈夫だ、心配すんな。オレらがついてる」
そんなわたしの頭を、レオがガシッとなでてくれた。
いつも通りの乱暴な手で、頭をわしわししてくる。
ちょっぴり痛いけど、でもとっても安心する、レオの手。
「お前の力が何だって、お前がもし『始まりの魔女』と関わりがあったって、お前はお前だ。オレたちの友達だ。そのことはぜったい変わんねぇ。どんなアリスだって、お前はオレたちが守るさ」
「……ありがとう、レオ」
こわくてふるえるわたしに、レオはニッコリと笑いかけてくれる。
隣のアリアもわたしにもっとぎゅっと体を寄せて、うんうんとうなずいてくれた。
このちがう世界で、『ふあん』なことがいっぱいで、さらによくわかんないことが増えて、大変だけど。
でも二人がこうやって一緒にいてくれるから、わたしはなんとかがんばれる。
「いい友情ねぇ。心の結びつきは人を強くする。友達は大事にしなさいねぇ。そうすればきっと、
ココノツさんはわたしたちを見てゆったりと笑った。
なんだかお母さんみたいにあったかくてやわらかい、包み込むような顔で。
そのふわふわのしっぽも合わさって、とってもやさしい『ふんいき』に見える。
「あまりにもドルミーレと同じ匂いがするものだからもしやと思ったけれど……今のところ
「ちょっともう。お喋りがすぎるんじゃないかなぁ?」
ココノツさんがしっとりと話している時、急にのんきな声が部屋の中にひびいた。
それはわたしたちのだれのものでもない声。
わたしたちは全員ビクッとして周りを見わたした。
すると、ココノツさんの隣にポンと音を立てて夜子さんが現れた。
空中にふわふわ、あぐらをかきながら逆さまの格好で浮いている。
あまりにも急で、それにヘンテコな登場をした夜子さんに、みんなびっくりポカンとしてしまった。
「今から見れば遥か昔の話とは言え、プライベートな話だよ? そんなペラペラ喋ったら彼女も恥ずかしいだろう」
「お
ムッと眉毛を寄せてむずかしい顔をする夜子さんに、ココノツさんはあきれたため息をついた。
二人は知り合いなのか、なんだか『どくとく』な『ふんいき』が流れている。
やれやれと肩をすくめているココノツさんを無視して、夜子さんは逆さまのままわたしに手を振ってきた。
「やっほーアリスちゃん、久し振り。元気にしてたかな? 私の言った通りちゃんと西を目指してるみたいだね」
「よ、夜子さん……! どうしてここに? ────いや、えっと、この間は助けてくれてありがとう」
「ん? あぁ、どうってことないさ」
いきなり現れた夜子さんに、わたしははてなマークでいっぱいになったけれど、とりあえずこの間のお礼を言うことにした。
でも夜子さんは大して気にしていなかったみたいで、なんだか適当な返事だった。
首をひねった夜子さんは、「そんなことよりもさ」とわたしにニヤニヤ顔を向けてくる。
「彼女の話を聞いて、君はどう思ったのか教えて欲しいな」
ポカンとしてるわたしたちのことはお構いなしに、夜子さんはそんな質問をしてきたのでした。
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