26 わがままな女王様2

 おしゃべりをしながらしばらく飛んでいると、町みたいなものが見えてきた。

 だだっぴろーい草原ばっかりだった中に、普通サイズの木がたくさん生えてる。

 そんな森みたいな中に木でできたお家がいろいろ建っていて、町みたいになっているのがよく見えた。


 ほうきにのってそのまま町の中まで行くのかと思ったけれど、レオとアリアは町から少し離れたところで着地した。

 そういえばほうきで飛んでるところも普通の人に見られちゃいけないって、さっき言ってたっけ。


 ほうきを降りて、三人で町までトコトコ歩いてく。

『魔女の森』でずっと特大サイズものばっかり見てきたから、なんだかちょっぴり変な感じがするけれど。

 町の中に生えている木はどれもこれも普通のサイズで、それに寄り添うように建てられている建物も、もちろん普通サイズ。


 この国に来て、初めてちゃんと人がいるところに来た。


「わたしたちの家があるのは、もう少し街の奥の方なの。そんなに遠くないから、早く行こう」


 ほうきを逆さにして肩に担いで、アリアがニコッと笑って言った。

 空いた方の手でわたしの手をとって、まるで迷子にならないように、とでもいうみたいにしっかりと握ってくれる。


 わたしたちが入ったのは大きめの道で、きっと町の大通りみたいな感じのところ。

 道端には屋台みたいなお店がポツポツと出ていて、人もそれなりに歩いてた。


 今更かもだけど、この世界の人たちはわたしの世界の人たちとなんにも変わらない。

 普通にお買い物をしたり、家族と仲良く歩いてたり、とっても普通だった。


 でもなんというか、ちょっぴりくらーい『ふんいき』がする気がするのは、わたしの気のせいかな。

 町の人がというか、この町全体がというか。

 なんだかとっても元気がなくて、暗い感じがする。


 森に囲まれた、木の家でできた町はとってもステキなのに。

 わたしが知っている家と違って、この町の家はキチッとまっすぐしてない。

 斜め向きに傾いたみたいに建てられたり、下の階より大きな上の階を後から乗っけたみたいにデコボコしてたり。


 見たこともない形の建物もあって、全体的に不思議な形のものが多かった。

 本当はそれをいろいろ見てまわったりしてみたいけれど、なんとなく町の『ふんいき』が暗くて、あんまりはしゃぐ気分にならなかった。


 レオとアリアは慣れてるからか、特に気にしてる感じじゃなくて、なんだか聞きにくい。

 でもなんとなーく、さっきまでとは違って静かになっちゃった気が、するようなしないような。


 この町を探検してみたいわくわくと、でもちょっと暗くてつまんないなぁという気持ちと。

 二つの気持ちにモヤモヤしながら、二人についてトコトコ歩いている時だった。

 道の先の方からなんだかガヤガヤ騒がしい声が聞こえてきた。


「ん、何事だ? 今日何かあったか?」

「ううん。お祭りはもっと先だし、今日は別に何も……」


 二人も何かよくわかっていないみたいで、顔を見合わせて首をかたむけている。

 でもどんどんとガヤガヤは大きくなってきて、今まですこし暗めだった町の『ふんいき』はガラっと変わった。


 なんなんだろうと、アリアの手を握ったままぐいっと前に身を乗り出した時だった。

 道の先の方から、とっても大きな声が飛んできた。


「────女王陛下のお成りである!!!」


 まるでスピーカーの音量を一番大きくして叫んだみたいに、耳が痛くなるような声がぐわーんと町に響いた。

 わたしは思わずアリアの手を放して耳を塞いで、あわてて二人の顔を見た。

 こんなにうるさいのに、アリアもレオもわたしみたいに耳を塞いでなくて、でもとっても青い顔をしていた。


「じょ、女王陛下だって!? なんでこんなへんぴな所に!?」

「わ、わかんないけど! でも大変! アリスこっち!」


 おっきかった声にまだクラクラしているわたしの手を、アリアが勢いよく掴んで引っ張った。

 反対の手をレオも掴んで、二人がかりでわたしをかけ足でひっぱる。


 わたしはただされるがままに道のはじっこまで引っ張り込まれて、そのまましゃがみ込むように二人に言われた。

 よくわかんないけど、とりあえず他の人も並んでそうしてるから、二人の言う通りに膝をついてみる。

 二人はほうきを脇に置いて、まるで土下座をするみたいに頭を地面にくっつきそうなほど下ろしていた。


 これはたしか、『へーふく』っていうんだっけ。

 なんでそんなことしているんだろうと、そう思っていると、また大きな声がぐわーんと飛んできた。


「────女王陛下の、お成りである!!!」


 距離が近くなったのか、もっと大きくてうるさくて耳が痛かった。

 わたしはうわっと悲鳴をあげながら、またあわてて耳をふさいだ。

 それでもじんじんと耳の奥が痛くて、ちょっぴり涙がこぼれそうだった。


 まったくもう。こんな大きな声で町中に叫んでるのは誰なんだろう。

 そう思って道の先を見てみると、大勢の人が束になった行列がこっちに歩いてくるのが見えた。


 とっても真っ赤な『しゅうだん』だった。

 兵隊さんみたいなピチッとした、赤と黒の二色の服を着た人がたくさん並んで歩いてる。

 そしてその行列の真ん中あたりに、真っ赤っかな女の人が歩いているのが見えた。


「バカ! 頭下げろ!」


 あれは誰なんだろうとよく見ようとしていたら、レオがあわててわたしの頭をガッと掴んだ。

 そのまま地面に叩きつけられそうな勢いでぐいっと頭を下に下げられて、みんなと同じような『へーふく』をさせられた。


「……あれは、なんなの?」

「……女王陛下の行脚だよ」

「女王様……!?」


 わたしがこっそり聞くと、アリアが顔を下に向けたままヒソヒソと教えてくれた。


「……そう。この国で一番偉い女王様。絶対に無礼があっちゃいけないの。だからアリスも、しばらく大人しくそのままでね?」

「わ、わかった」


 真剣な声で言うアリアに、わたしは素直にうなずいた。


 女王様なんてわたし、初めて見たなぁ。

『まほうつかいの国』には、女王様もいるんだ。

 ならきっとキラキラしててとってもキレイでステキなんだろうなぁ。

 おっきなお城に住んでて、たくさんの召使さんに囲まれて、『ぜいたくざんまい』で楽しいのかな。


 女王様って、一体どんな人なんだろう。

 ちょっとでいいから、ちゃんと見てみたいなぁ。

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