25 わがままな女王様1
「わぁ! すごいすごい!」
わたしはアリアのほうきの後ろにのることになった。
自転車の二人乗りをするみたいに一緒にほうきまたがって、ぴったりと体をくっつける。
ほうきの先の束になりはじめのところにお尻を乗っけて、アリアはわたしのすぐ前で柄をぎゅっと脚ではさんだ。
わたしがアリアに後ろから抱きつくと、ふんわりと下から押し上げられるような感覚がして、わたしたちはぐーっと上に浮かび上がった。
この国に来て不思議なことはたくさんあったけど、でもお空を飛ぶのなんて初めて。
わたしがまさか、空飛ぶほうきにのれる日が来るだなんて。
とってもステキで夢みたいで、わたしはわくわくとドキドキをおさえれなかった。
思わずわーっと声を出したわたしに振り返ったアリアは、ふふふっと優しく笑った。
「脚をきゅっと閉じて、わたしにしっかり掴まっててね。落ちたら大変だから」
「うん、わかった!」
隣に一人で飛び上がったレオを確認してから、アリアはすーっとほうきをすべらせた。
見た感じ、本当に自転車にのってるくらいの感覚で、楽々すいすいと空中を進んでいく。
レオはわたしたちのすぐななめ後ろにくっついて飛んでいて、わたしたちのことを心配そうにチラチラ見ている。
わたしが落っこちたりしないか、気にしてくれているのかもしれない。
顔はこわいけど、『あんがい』やさしいのかも。
「ねぇねぇ! さっき二人はまだ魔法のお勉強中だって言ってたけど、魔法はお勉強しなきゃ使えないの?」
びゅーびゅーと風をきって空を飛びながら、わたしは興味津々で質問してしみた。
何にもさえぎるものがない草原の上を飛んでいるからか、アリアは少し気をぬいた感じで振り向いて、うんとうなずいた。
「もちろんそうだよ。魔法を使うためには、いろんな術式の理論を学んだり、世界の法則を理解してなきゃいけないからね」
「うわぁそうなんだ。わたし、魔法は適当に呪文を唱えればいいのかと思ってたよー」
「呪文を唱えるにも、その呪文の意味と仕組みを理解しなきゃなんだよ。だからわたしたちはいつも勉強ばっかりなの」
「そーなんだぁ。大変だぁ」
魔法が使えればなんだって思い通りになるのかな、なんて思ってたわたしにとって、それはちょっぴりショックだった。
魔法を使うためにも勉強しなきゃなんて……。わたし、勉強あんまり好きじゃないんだよなぁ。
でも、学校の勉強よりはぜったい楽しそう……!
「オレは勉強なんか嫌いだ。机にかじりついてるより、実際に体を動かす方がよっぽどいいぜ」
「レオはホント考えるより動く派だよねー。わたしより使える魔法少ないしー」
「いいんだよオレは別に。オレはお前みたいにガリ勉じゃないかわり、お前よりも動けるからな! それに、ほうきもオレの方が上手い!」
ニヤニヤと笑いながら言うアリアに、レオは少しムッとして言った。
そしてその言葉のままびゅーんとほうきのスピードを上げて、そのままわたしたちよりも高いところにぐーんとのぼった。
それから何回かくるくるぐるぐると空中で回転しながら大きく飛び回って見せて、またわたしたちの横に勢いよく帰ってきた。
飛行機が航空ショーでやる『あくろばっと』みたいで、すっごく格好良かった。
「すごいすごい! レオはお空を飛ぶのが上手なんだね!」
「まぁな。アリアはオレに比べりゃヘタッピだから、振り落とされねぇよに気を付けろよ」
「落とさないよ! アリスに変なこと吹き込まないで!」
アリアに抱きついたままパチパチ手を叩いてわたしがほめると、レオはとっても得意そうな顔でニカッと笑った。
でもすぐ調子にのって余計なことを言うから、アリアがぶーっと不機嫌になった。
二人は会った時からずっと喧嘩気味な感じだけど、でもぜんぜん仲は悪そうじゃなくて。
きっと、とっても仲がいいからこそちっちゃなことで言い合えるんだな。
わたしにとっての、晴香や創みたいな感じなんだ。
そう思って二人を思い出したら、とってもとっても会いたくなった。
いつも一緒にいたから、こんなにずっと離れたことなんて、そういえばなかった。
「二人はとっても仲がいいよね。ずっと昔からお友達なの?」
「わたしたち、幼馴染みなの。親同士が魔法使いで仲が良くて、だからちっちゃい時からずっと一緒なんだよ」
「腐れ縁ってやつだな。昔から遊ぶのも勉強するのも、大体一緒だな」
気持ちをまぎらわすために聞いてみると、二人はそろってうなずいて答えてくれた。
ついさっきまで言い合ったりしていたのがウソみたいに、ぴったり息が合ってる。
「わたしたちの街には魔法使いの家は二つしかないから、同じ立場の友達はレオしかいないの。他の子たちは普通の子たちだから、なかなか一緒にはいられなくて……。だからどうしてもレオとばっかりいることになっちゃうんだよねー」
「どうして他の子とはいられないの?」
「魔法ってのは、魔法使い以外の前では基本的に使っちゃいけねーんだよ。だから、普通の連中と一緒にいたら勉強も練習もできねぇ。それに何かあった時マズいから、基本オレらは他の連中とはつるまねぇんだ」
「そ、そうなんだ……」
魔法って、魔法使い以外の前では使っちゃいけないだ……。
あ、でも確かにさっきそんなこと言ってたなぁ。
わたし、そんなルールがあるなんてぜんぜんしらなかったよ。
「あれ? じゃあ『まほうつかいの国』は、みんな魔法が使えるわけじゃないの?」
「んなわけねーよ。魔法が使えるのはごく一部、限られた人間だけ。つまり魔法使いだけだ。まぁ魔女っていう例外もあるけどな」
「魔法っていうのはとっても『すうこう』な『しんぴ』だから、『いたずらに』人目に触れちゃダメなんだよ。それに使うのにも才能があるしね。だからここは『まほうつかいの国』だけど、魔法を使える人は多くないし、普通の人にとって魔法はそんなに身近じゃないんだよ」
「えー! そうなんだ。なんだかいがーい」
びっくするわたしに、レオは少し呆れたような顔をして、アリアは楽しそうにクスクス笑った。
わたしはちょっぴり恥ずかしくなって、唇をつんとしてごまかした。
だってわたしはここの世界の子じゃないから、何にも知らないんだもん。
『まほうつかいの国』はもっと、魔法にあふれてキラキラしてるイメージだった。
みんなが思い思いに魔法を使って、いろんな不思議が飛び交ってる、そんな国だと思ってた。
だって、わたしがずっといた『魔女の森』は不思議なことばっかりだったし、レイくんやクロアさんは普通に魔法を使ってたし。
ずっと森にいたわたしには、まだまだこの国にのこと、この世界のことについて知らないことがたくさんあるみたい。
はやくおうちに帰りたいけれど、でもでもここのことをもっと知りたいって気持ちもある。
帰れるようになるまでに、色んなものが見られるといいな。
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