12 魔女の森6
「あれは、だれ?」
すらっとした白い石像。
多分大人の人よりも一回りは大きく作られた、女の人の像。
それそのものがとってもきれいで、わたしはじーっと見つめてしまった。
なんだ見ていると心がざわざわするような、しないような。
ポーッとそれを眺めながら、ポツリと聞いてみる。
すると隣のレイくんがうれしそうに答えてくれた。
「あれは、『始まりの魔女』ドルミーレの像だ。ここは、彼女を祀り讃える神殿だからね」
「『始まりの魔女』……?」
「そう。僕ら魔女の始まり、全ての魔女の母だよ」
レイくんは優しく微笑みながらそう言って、わたしの頭を撫でてくれる。
わたしはその言葉の意味を半分も理解できなかったけれど、とにかく魔女なんだってこと、そしてなんだかすごい人ってことはわかった。
「じゃあ、神様みたいなものってこと?」
「解釈によっては、それも間違いではございませんね。わたくし共魔女にとって、あの御方はそれに等しい存在でございます」
クロアさんはわたしの顔を見てなんだかうれしそうに微笑んだ。
よくわからないけど、でも笑顔を向けられるのはうれしかったら、わたしもつられて笑顔になってその顔を見上げた。
「あれ、じゃあもしかして、二人とも魔女なの?」
「そうだよ。僕もクロアティーナも魔女だ。ほら、魔法を使っただろう?」
「そ、そうだった!」
レイくんに言われてわたしは後から気がついた。
今さっき、クロアさんがテーブルやイスを消したのを見たし、レイくんだって魔法でわたしをここへ連れてきたって言ってた。
魔法そのものにびっくりしたり気にしたりしていて、それを使える人のことまで気が回ってなかった。
ここは『魔女の森』で、そして魔法が使える人がいるのなら、それは魔女のはずだった……!
そのことに気付いてハッとしているわたしを、レイくんはおかしそうにクスリと笑った。
「もう、そうならそうって早く言ってくれればいいのに!」
「ごめんごめん。気付いているだろうと思って、敢えてわざわざ言わなかったんだ」
「うーん、まぁそうだけどー」
確かに気付かなかったわたしが『どんかん』なのかもしれないけどさ。
でもこの森に来てから変なものばっかりで、そこまで色々考える余裕なんてなかったんだから。
レイくんはイジワルだなぁと思ったけれど、でも目の前に二人も魔女がいるということにわくわくが止まらなかった。
「じゃあじゃあ、魔女さんのお話聞かせてよ! 魔法ももっと見てみたいし!」
「そうだね、アリスちゃんには色々お話をしなきゃいけないね。詳しい話は、奥でゆっくりしようか」
レイくんはそう言うとわたしの手を引いて歩き出した。
祭壇の脇には木の扉があって、その先には地下に降りていく階段があった。
そこもはじめは真っ暗だったけど、扉が開くのと同時にロウソクの火がポンポンとついていって明るくなる。
なんだか、秘密基地に潜入するみたいだとわたしは思った。
三人で階段を降ると、ロウソクの明かりでオレンジ色に照らされた石造りの廊下が広がっていた。
たくさんの木の扉がずらっと並んでいて、地下に色んなスペースがあるんだってことがわかる。
そのうちの一つの扉をレイくんが開くと、そこには大きなリビングのような部屋が広がっていた。
さっき森で使ったものよりももっと大きなテーブルや、十人くらいで座っても余裕がありそうなL字型の大きなソファー。
サンタさんが楽々通れそうな大きなダンロなんかもある。
わたしたちが中に入ると、扉は勝手に閉まって、それにダンロの火が勝手についた。
それに驚くわたしの手をクロアさんが引いて、ソファーまで連れていってくれる。
クロアさんはまず自分が先に座ると、わたしのことを楽々抱き上げてそのおひざに座らせてくれた。
そして後ろから、まるでぬいぐるみにするようにムギュッと抱きしめてくれた。
それがなんだかとってもあったかくて、優しくて、わたしはうれしくなってクロアさんの腕をきゅっとつかんだ。
「おやおやクロアティーナ。すっかりアリスちゃんを気に入ったみたいだね」
「ええ。大変愛らしくいらっしゃいます。ずっと愛でていても飽きは致しません」
「わたしもクロアさんのこと、好きだよ」
「まぁまぁ、ありがとうございます」
クロアさんはふふふと笑って、さらにわたしをきゅっと抱きしめてくれた。
そんなわたしたちをレイくんは微笑ましそうな顔で見ている。
「そうだね。僕もアリスちゃんのことはとっても可愛いと思う。こんなに可愛い女の子になっていたなんて、正直予想外だったよ」
「わ、わたし別にかわいくなんてないよ。他にかわいい子なんていっぱいいるし、わたしなんて普通だよっ」
急にほめられて、顔がポッと熱くなる。
そんなわたしをレイくんは優しい笑顔で見てくるから、余計に心臓がドクドクする。
「いやいや、アリスちゃんはとっても可愛いし、それに凄く心優しい魅力的な女の子だ。それは僕が保証するよ」
「え、えぇー…………」
そんなストレートにほめられたことなんてなくて、わたしはとにかく照れてしまった。
こういう時、どういう顔をしていいのかわからないよ。
とにかく、なんだかとっても恥ずかしかった。
「僕らのプリンセスが君のような子でよかった。改めて歓迎するよ、アリスちゃん」
赤くなっているわたしをよそに、レイくんは優しくそう言って微笑んだ。
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