24 不器用な友達

 ちょっと待ってよ? 私魔女なんだよね? なっちゃったんだよね?

 会う魔女みんな私のこと魔女だって言うんだから、間違いないよね?

 なのに魔法が使えないってどういうこと!? それのどこが魔女なの?


 それに私って、お姫様ですごい力あるんだよね。

 魔法使いも魔女も欲するような力があるんだよね。

 それなのに、普通の魔女なら息をするように、当たり前に使える魔法が使えないってどういうこと!?


「全く使えないということは、ないはず。現にあなたは一度、魔法を使っていた」

「そ、そうだよね。向こうで戦った時私使ってたもんね……」


 自覚というか、はっきりとした自分の意思はあの時希薄だったから、当時の感覚を思い出すことは難しいけれど。

 でもあの時、私は確かに魔法を使っていて、氷室さんの怪我を治していたのは、紛れもなく私だった。


「……誰にでも不得意なことはある、から……」

「うん……うん。ありがとう氷室さん」


 慰めるように言う氷室さんに、私は気落ちを隠せずに答えた。

 正直魔法は使ってみたかった。折角、という言い方はおかしのかもしれないけれど。でも魔女になったんだから。

 でも一度は使えたんだから何かの拍子に使えるかもしれないし。希望は捨てないでおこう。


「取り敢えず今悩んでも仕方ないし、私の魔法については追々ということで……」

「…………」


 苦し紛れに言うと、氷室さんは真顔のまま私を見つめておずおずと頷いた。

 心配してくれてるのかもしれないけど、今すぐどうこうなる問題でもなさそうだしね。


「そうだ、それで昨日襲ったきた人形のことなんだけど……」

「それが一番の懸念事項」


 氷室さんは少し食い気味に言ってきた。


「やっぱり魔法使いの仕業かな? レイくんは、魔法使いらしくないとは言ってたけど」

「話を聞いただけではわからない。けれど、今あなたを襲うとしたら、魔法使いと考えるのが妥当。それに、気になることもある」


 私が首を傾げると、氷室さんは少しだけ辺りを見やってから言った。


「今日ここに来た時、妙な違和感があった」

「もしかして学校に魔法使いが潜んでるとか!?」

「わからない。魔法使いの気配とは、違うと思う。けれど魔女のものとも違う。その人形の襲撃と、関係がある可能性もある」


 確かにレイくんも、魔法使いでも魔女でもないようだ、と言っていた。

 そういう意味では共通点はある。


「今日は一日、気にしておいたほうがいいね」


 私が言うと氷室さんは頷いた。

 昼間、人目が至る所にある学校の中で襲撃してくるとは思えないけれど、でも気をつけるに越したことはない。


「朝から色々話してごめんね。私氷室さんには頼りぱなしだ」


 あの時、私を迎えにきてくれた時からずっと。

 氷室さんが守ってくれなかったら、私は今こうしてここにはいなかったし。

 今だってこうして氷室さんに相談しないと、わからないことや不安なことばかり。


 でも、どうして氷室さんはそこまで私を助けてくれるんだろう。

 夜子さんは魔女同士、力を合わせるべきって言っていたけれど。

 そもそもどうして、私を助けるために異世界まで来てくれたんだろう。


 思えば私は、その辺りのことを全く氷室さんと話していなかった。

 助けてもらってばかりで、頼ってばかりで、氷室さんの気持ちを確かめていなかった。


「あの、さ。こうして相談ばっかりしておいて今更なんだけど、氷室さんはどうして私のことを助けてくれるの? あの時だって、あんな危険な目にあってまで、魔法使いのお城に乗り込んで……」


 私が思わず聞くと、氷室さんは一瞬視線を落とした。

 気を悪くさせちゃったかなと慌てて訂正しようとした時、氷室さんは私の目をまっすぐに見つめて口を開いた。


「……花園さんは、その……友達、だから」

「氷室さん……」


 私の目をまっすぐに捉えながら、手を前でぎゅうと握り合って、どこかそわそわとしているようだった。

 表情は普段と変わらない無表情のようなクールな面持ちだけれど、どこか気恥ずかしさを隠しているようにも見える。


 普段感情をほとんど表に出さない氷室さんにしては、出している情報量が多かった。


「あなたが姫君だということとは、関係なく。私は友達を助けたかった、から。あなたが連れていかれて、いても立っても、いられなかった……」


 私たちは今までほとんど話したことがなくて、仲良くなりたいという私の一方的な片思いだけだった。

 あの日勇気を出して話しかけた。それだけのことで、氷室さんは危険も顧みずに私を助けに来てくれたんだ。

 私が仲良くなりたくて声を掛けただけなのに、氷室さんはそんな私を友達だと思っていてくれたんだ。


 嬉しすぎて、ありがたすぎて、私は思わず氷室さんに飛びついてしまった。


「ありがとう氷室さん。こんな私を友達って言ってくれて」

「あなたが、友達と言ってくれたから……」


 抱きしめる私に戸惑いながらも、氷室さんも私を抱きしめてくれた。

 弱々しく、恐る恐る。それでも確かに、氷室さんの細い腕は私を包んでくれた。


「これからもきっといっぱい迷惑かけちゃう。いっぱい危険な目に遭わせちゃうかもしれない……」

「大丈夫。その時は、私があなたを守る」

「私も、氷室さんのこと守るよ。魔法使えないへっぽこだけど、でも、友達だもん」


 あの日あの時、声を掛けていなかったら、私はこんな素敵な友達を得られていなかったかもしれない。

 私なんかのために命をかけてくれる友達。私もそれに応えないといけない。

 氷室さんが私を守ると言ってくれるのなら、私だって出来る限りの事をして氷室さんを守る。


 感情を表に出さなくて、常にクールで大人しい氷室さん。

 口数だって多くないし、よく見ていないとその機敏を見逃しちゃう。


 でも、今はその気持ちがとても伝わってきている。

 私のことを大切に思ってくれているその気持ちが。

 それが何だか気恥ずかしくもあり、でもやっぱり嬉しくて。


 だから私も、その気持ちに精一杯答えよう。

 この不器用な友達と、これから沢山の良い思い出を作れるように。

 氷室さんと過ごす日々もまた、私が守りたい日常なんだから。

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