極光アポカリプス
南乃 展示
序文
案外、予兆というのは至極穏やかなものだ。
先に待つのがどんな事態であっても。
♢♢♢
ぼくが最初の最初、出だしの部分について思い出せることはあまり多くない。
なにせ夜、それも夏の暑い時期の真夜中だったから、大きな音がしても雷か何かだろうな、くらいにしか思っていなかった。
見てた深夜アニメがテレビの電源ごとぶっつりと切れても、エアコンが同時に止まっても、ああ雷が近くに落ちたのか、運が悪いなあ、程度にしか思わなかった。
その夜はどうせ復旧まで時間が掛かると思って、ふてくされたまま寝てしまったはずだ。
事態に気付いたのは次の日だ。
登校のために仕方なく付けていたスマホのアラームよりも早く目覚めたぼくが雨戸を開ければ、外は昨夜の雷なんてなかったかのようで、雨が降った様子もなかった。
しかし、晴れてもいなかった。
それらの代わりに、輝く七色のカーテンが空いっぱいを埋め尽くしていた。
オーロラなんて初めて見たな。
それがまぬけな当時のぼくの、この事態への最初の感想だったように思う。
夜中のことと何か関連があるとか、そんなことは一切考えていなかったはずだ。
とりあえず綺麗だし写真でも撮っとこうか、ついでにツイッターにも上げてやろう、とのんきに思いつつスマホを手に取った。
だけど、昨日から充電器に挿しっぱなしのはずのスマホは、電源すら付かなかった。
いつもはアパートの前でガタゴトと煩いローカル路線の騒音もなく、隣の部屋の爆音のような目覚まし時計も鳴っておらず、ただひどく静かな朝だったというのははっきりと覚えている。
だからぼくにとっての『出だし』はつまるところ、ただ窓の前でスマホを持って立っていたというだけだ。
それから8年が経った。
今もオーロラは空を覆い尽くしている。
今も世界は壊れたまま、ぼくのスマホの電源が付くこともない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます