笑の46 雪降る夜に
終業式が終わりクラスの中は明日からの冬休みのことで騒がしい。
「ミントは冬休みはどうするの?」
「ん?そうだなぁ、大体はバイトだな。後は家でゴロゴロか?」
「言葉さんは?」
「あ〜、あいつは多分暇だろうから俺の家にいるんじゃないか?」
沙織が尋ねるので適当に返事をする。あまり込み入った話をすると薮蛇になりかねない。
「沙織はミドリンのとこだろ?」
「え、ええと、まあそうね」
「ラブラブなことで」
「ミントには言われたくないわよ」
「うん、僕もそう思うよ」
「駿まで?ひどいなぁ」
考えるまでもなく沙織はミドリンとべったりだろうし、駿は俺の予想だがアリサあたりと仲良くするんじゃないかと思ってる。
「詩織は?」
「私?私は・・・ちょっと用事が」
「ふ〜ん」
「な、何よ?姉さん」
「べっつに〜」
沙織が言うには最近詩織がやたらとメールやらLINEやらを気にしているそうで、気になる相手がいるみたいなんだそうだ。
じゃあまたな、と言って俺たちは校門で分かれる。
今日はバイトがあるので鉄塔はなしでそのままバイトに向かう。
10時をまわってバイトが終わり家へと帰ってくる。
下から見上げた俺の部屋には明かりが灯っていた。
「終業式の日くらいは帰るのかと思ったんだがなぁ」
2階の奥、玄関のドアを開ける。
「ただいま」
「おかえりなさい」
いつも通りの返事が返ってくる。
「今日くらいは帰ってるかと思ったんだが」
「迷惑だったかしら?」
「いや、全然」
ソファの定位置に座って雑誌を読んでいた言葉が顔だけこちらに向けて返事を返してくる。
この時間にまだいるってことは今日も泊まって帰るつもりの御様子。
「食うか?」
そう言って俺はバイト先で貰ってきたケーキをテーブルに置く。
「ええ、頂くわ」
「お茶淹れてくるな」
コーヒーと紅茶を用意してソファに座る。
「うん、美味しいわね」
「やっぱコンビニといえど中々美味いよなぁ」
「ええ、このシリーズは外れがない感じよね」
お互いに食べさせあいながら感想を言い合う。
これもすっかりと普通の、そう日常になっている。
「ん?どうかしたか?」
「雪・・・・」
外を見れば薄っすらと雪が積もっている。
「ねぇちょっと外に出てみない?」
「ベランダじゃなくてか?」
「ええ」
俺の返事も待たずに言葉は壁にかけてあったコードを手に取る。
「聞いた意味ないだろ?それ」
苦笑しながらも俺も自分のコートを手に取る。
部屋から出て階下に降りると道路にも僅かながらもう積もり始めていた。
時刻は深夜0時を回っていて辺りには人影もなく真っ白な道が続いている。
さくさくと雪を踏む音が、静かな音色を奏でる。
「綺麗だな・・・」
俺がポツリと呟くと先を歩いていた言葉が振り返る。
「わかるわよ・・・綺麗ってことが・・・私にも」
街灯の下で両手を広げて空から舞い降りてくる白を纏う言葉に俺は見惚れてしまう。
それは1年前、あの花火大会の日に見た言葉をはっきりと思いださせる姿だった。
それは、作り物ではなく。
言葉本来の顔なのだろう。
自身はおそらく気づいていないが、その笑顔を俺は忘れたことなどなかったから。
「どうかした?」
「いいや、何でもない」
真っ白な道を、しっかりと手を繋いで歩いていく。
繋いでいない手で雪を捕まえては微笑む言葉を見て俺は心から良かったと思った。
お前、ちゃんと笑えてるぞ。
敢えて今は何も言わないが、後で教えてやろうと思う。
お前の本当の笑顔を初めて見たのは俺だって。
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