楽の38 いつもと同じ朝
夕方になり満足したのか、言葉は素直に別荘まで一緒に帰った。
当然、帰るなりミドリンをはじめみんなにあれやこれやと聞かれたが今日は特に何もなかったので適当にいなしておいた。
「じゃあ明日は朝10時にホールに集合で」
「ああ、わかった」
「きっと起きれない人もいるでしょうけど」
アリサにみんなの視線が集まる。
「き、気合いよ!気合い」
「詩織、起こしに行ってやってくれな」
「ええ、ダメ元で」
「詩織〜あなたまで〜」
「ははは、まぁ頑張って起きてくれ」
ひとしきりアリサで遊んでから解散となる。
珍しく言葉は俺の部屋に来るつもりがないようで。
「朝起こしに行くから」
と言って沙織と一緒に二階に上がっていった。
「じゃあまた明日な」
「うん、おやすみ」
「僕はちょっと片付けをしてから寝るよ」
久しぶりにゆっくりと一人で寝れるような気がするなと思い部屋に戻ってベットに潜り込む。
変わらず程よく冷房の効いた部屋なのかベッドはヒンヤリと気持ちよく俺はすぐに眠りについた。
「・・・ミント。もう朝よ、起きなさい」
「んん・・・もうちょっと」
「あなたってホント朝弱いわね」
薄っすら開けた先には言葉がここに来てからの定位置になりつつあるベッドの脇にもたれてこちらを見ているのがぼんやりと分かった。
「少しだけだからね」
「ん・・・・」
言葉の呟きを聞き流して俺はもう一度目を閉じた。
・・・・・・
「いい加減に起きたほうがいいわよ」
「・・・・ん」
「ほら、ミント。起きなさい」
「・・・・ん」
「全く、早目に来て正解だったわね」
言葉が俺を揺すっているがそれがまたちょうど良く更に眠気を誘う。
結局、俺が起きたのはそれから一時間後だった。
「あなたね、少しは遠慮ってものはしないのかしら?」
「何がだ?」
「何がって、女の子の前で堂々と着替えることないでしょ?」
「ここ俺の部屋だぞ」
「わかってるわよ。そういうのじゃないでしょ」
「気になるか?お前」
「ならないわよ。ならないけど常識的に考えておかしくないかしら?」
「少なくともお前には言われたくないな」
現在、俺はトランクス一枚で絶賛着替中だ。
そんな俺を前に言葉はいつも通り無表情で見ているわけだ。
「はぁ、もういいわ。さっさと着替えて頂戴ね」
「へいへいっと」
着替えが終わり適当に寝癖を直して言葉と一緒にホールに降りていったが、まだ誰も来ていなかった。
「リビングの方でコーヒーでも飲むか?」
「ええ、そうしましょう」
リビングにもまだ誰もおらず俺はコーヒーを、言葉は紅茶を飲んで待つことにした。
「静かね」
「ああ」
し〜んとしたリビングに俺と言葉、2人でお茶を飲み音だけが響く。
「なあ?俺まだ寝ててもよかったんじゃないか?」
「あなたが寝てると私がヒマなのよ」
「別にいいんじゃないか?ボッチだし」
「・・・前にも言ったけどボッチじゃなくて、ひとりが好きなだけよ」
「それを世間ではボッチって言うんだぞ」
「・・・友達くらい居るわよ」
紅茶を飲み干し俺にティーカップを差し出す。
二杯目の紅茶を淹れてやりながらふと今日のことを聞いてみる。
「それで今日は街に出てどこに行くんだ?」
「さぁ?カラオケとかボーリングとかじゃないの?」
「またえらく普通だな」
「あなたと行くところが普通じゃなかっただけよ」
「普通ぽい方がよかったか?」
「それはないわね、中々体験出来ないことばかりだったからよかったわよ」
「だろ?」
そんな話をしながらリビングで2人静かに時を過ごす。
「あれ?2人とももう起きてたんだ?」
「おう、駿。おはようさん」
「おはようございます。駿くん」
やってきたのは駿が最初だった。
「他のみんなはまだなの?」
「ああ、今のところ俺たちだけだな。アリサは期待出来ないし、ミドリンは起きてるかもしれないけど昨日も片付けがどうとか言ってたしな」
「詩織ちゃんと沙織ちゃんもまだなんだ?」
「そうだな。まだ見てないぞ」
別荘といっても結構な広さがありミドリンは何か片付けがあると言っていたので起きているかもしれないし、沙織はミドリンといるかもしれない。
アリサは確実に寝てるし詩織が苦戦している可能性も十分にある。
「もうちょっと寝とくべきだったな」
「まさか今からまた寝る気じゃないでしょうね」
「ははは、そこまで眠いわけじゃねーよ」
「相変わらず仲がいいんだね」
対面に座った駿がそう言って笑う。
「悪くはないな」
「そうね、悪くはないわね」
「そういうところが仲がいいって言うんだよ」
やれやれと肩をすくめる駿にコーヒーを淹れてやり俺は時計に目をやる。
10時43分。
「お昼くらいに出発出来ると思うか?」
「アリサ次第じゃない?」
「アリサさん次第だと思うよ」
2人は同じ答えを返してくる。
全くどれだけ寝起き悪いんだよ、あいつは。
黙っていれば知的な美少女にしか見えない残念なアリサを思い浮かべてため息をついた俺だった。
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