楽の36 どこまでが普通なんだろうか


 夕方までひたすら海で遊んだ俺たちはリビングでぐったりと横になっていた。


 女性陣それぞれがあまりに魅力的であったがために否が応でもテンションが上がってしまった結果である。


「ミントくん・・・アレは反則だよね?」

「ああ、あの格好で抱きつかれるといくらなんでも海から上がれんな」

 ミドリンは海の中で沙織と遊んでいて、まぁ側から見ても砂糖を吐きそうなバカップルぶりを見せてくれたのだが沙織がミドリンに抱きつきまくったおかげでミドリンが海から中々上がれなくなったのだ。


 そりゃそうだろう?

 ミドリンも男の子だからな。


「お〜い、駿?生きてるか?」

「ははは、僕もうダメかも・・・」


 駿は駿でアリサに遊ばれ続けた上に詩織のお淑やかではあるが殺人級のボディにやられてグロッキー状態だ。


「そう言うミントくんはどうなの?」

 ソファでうつ伏せになりぐったりした駿が俺のほうを見る。


「大丈夫だと思うか?」

「ううん、思わないよ」

「だろ?」


 2人同様に俺も言葉の相手をしていたのだが、平常運転というか何というか・・・まぁ普段通りすぎて逆に疲れた。


 手を繋ぐはよしとして、砂浜で座っていると寄り添ってくるのはちょっと勘弁して欲しかった。


 海に入ったら入ったで沙織よろしく密着されるのでミドリンと2人、上がるに上がれない状態が続いた。

 意識してないとかそう言う問題じゃないんだよなぁ。


 男3人がこうしてリビングでぐったりしているのに引き換え女性陣は今はみんなでお風呂に入っている。



「なぁミドリン。こんなのがあと何日も続くと身体がもたないぞ?」

「・・・そのうち慣れるかな?」

「慣れないだろ・・・」


 執事さんが入れてくれたアイスコーヒーを飲みながらため息をつく俺たちだった。

 ある意味側から見ると贅沢すぎるんだとは思うんだけどな。


 流石に疲れたので女性陣がお風呂から上がってくるまでに俺たちは各々部屋に戻って休むことにした。



 部屋に戻ってベッドに倒れこむ。

「はぁ疲れた・・・」

 程よく冷房の効いた部屋のベッドは冷たくて気持ちよく俺はそのまま夢の世界に旅立っていった。



「・・・・ん、ん?」

 どれくらい寝ていただろうか?部屋の明かりを消していなかったので時間の感覚がわからない。

 俺は微かに香る嗅ぎ慣れた香りで目を覚ました。


「あら、おはよう。まだこんばんはかしら?」

 ベッドの脇にもたれてこちらを眺めていた言葉と目が合う。

「ん?ああ言葉か・・・」

 少し寝ぼけた頭で言葉を認識してからここが家じゃないことに気づく。

「なんでお前がいるんだよ?」

「なんでって言われても・・・お風呂から上がってミントを呼びにきたら気持ち良さそうに寝てるから」

「もしかしてそのままずっと居たのか?」

「ええ」

 さも当然と言わんばかりにそう答える言葉に返す言葉がない。


「ところで今何時だ?」

「11時をちょっと回ったくらいよ」

 11時か・・・部屋に戻ってきたのが7時くらいだったと思うから結構寝てたんだな。

「それで何か用だったのか?」

「執事さんがデザートを用意してくれてたから呼びに来たのよ」

「そりゃ悪いことしたな、今から行くか?」

「あなたさえ良ければ」


 もうみんなが食べてしまっているかもしれないが折角だしリビングの向こうのキッチンに行ってみることにする。


 寒くない程度に空調の効いた屋内は寝苦しさとも無縁で昼間の疲れも癒えたように思う。

 部屋からキッチンまですぐそこなのにもかかわらず言葉はそっと俺の手を握り指を絡めた。


「最近ね・・・ちょっと夜が苦手なのよ」

 言葉の呟きに俺は先日の事を思い出す。

「ははは、子供みたいだな」

「子供の頃の方がマシよ」

 敢えて笑い飛ばした俺はそのまま言葉の手を引いて階段を降りていった。


「あれ?明かりが・・・」

 キッチンからは僅かに明かりが漏れている。


「あら?ミントに言葉じゃない」

「こんばんは。ミントくんに柊さん」


 キッチンではアリサと詩織が美味しそうにプリンを食べていた。

「お前らも今頃か?」

「お風呂から上がってちょっと寝ちゃったからね。そういうあんた達もでしょ?」

「まぁそうだな」

「・・・お二人で寝てたんですか?」

 アリサの微妙な聞き方に俺の曖昧な返事を詩織は何か変に勘違いしたらしく赤くなって顔をそらした。


「詩織、そういうんじゃないからな。アリサも変な聞き方するなよ」

「でも一緒にいたんでしょ?」

「ま、まぁそれは否定出来ないが・・」

「私がミントの寝顔を見ていただけよ」

 言葉は何ごともなかったかのように冷蔵庫からプリンを出して俺に手渡してくれる。


「ホント、あんた達ってわからないわね」

「そうだろうな、俺もそう思うよ」

「・・・・・・」

 プリンの蓋を開けて言葉からスプーンを受け取る俺を詩織は黙って見つめていた。

「どうかしたか?」

「え?いえ、何でも」

「プリンが欲しいのかしら?」

「アリサじゃあるまいし、なぁ?」

「あんた達失礼ね!そこまでがめつくないわよ!」


 キッチンのテーブルで4人でプリンを頬張る。

 うん、美味いな。

 思ったより濃厚でカラメルの甘さがちょうどいい。


「はい」

「さんきゅ」

「もうあまりに自然すぎて突っ込む気も起きないわね」

「いつもなのですか?」

「そ、いつもよ、この2人は」

 いつのまにか一緒に食べるときは「あ〜ん」をするのが普通になってる。

 外食するときはちょっと気をつけないとな。

 と思いつつ言葉にプリンを食べさせてやりながら多分無理なんだろうなと満足げな言葉の横顔を眺めた。


「あっちもこっちもバカップルでイヤになるわね」

「それに関しては賛成です」


 アリサと詩織に白い目で見られるのも気にせず言葉は次の一口を俺に差し出すのだった。







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