楽の18 昼飯くらいゆっくり食わせてくれよ
「で、店長は何をくれたんだ?」
家に帰ってから2人で袋を開けて中を見て見ると、イチゴのカップケーキとブルーベリーのチーズケーキが入っていた。
「どうする?今から食うか?もう結構な時間だしそろそろ帰るか?送っていくぞ」
時計を見ると10時を過ぎている。言葉がどこに住んでいるのか聞いてはいないがこの時間から1人で歩いて帰すわけにもいかない。
「そうね、どうしようかしら?」
「お前まさか泊まっていくとか言わないよな?」
どうも今日の言葉はいつもよりゆっくりしている。普段なら晩飯を食べ終わったらさっさと帰っていくのだが今日はやけにのんびりしている。
「ダメかしら?」
「普通に考えてダメだろ?」
「どうして?」
「あのなぁ、いくらお前でも男の家に泊まるってことは何かあるかもって考えないか?」
「何かあるのかしら?」
「・・・ない。とは言い切れない」
言い淀んだ俺を言葉はじっと見つめている。
「な、なんだよ?」
「あなたも男の人なのね」
「当たり前だ。何だと思ってたんだ?」
「何って・・・さぁ?何かしらね」
そう言って言葉はイチゴのカップケーキにフォークを突き刺し一口パクっ食べて満足そうな笑い顔を作ってみせる。
「仕方ないから今日のところは帰ることにするわ」
「そうしてくれ」
カップケーキを食べ終わると言葉はいつもと同じように玄関に向かう。
「おい、送っていくぞ」
「大丈夫よ、迎えをよこさせるから」
「迎えって?お前どこのお嬢様だよ?」
「どこって?それなりよ、それなり」
そう言って言葉はあっさりと部屋から出て行った。
「う〜ん、わからん。アイツほんとに泊まっていくつもりだったのか?そもそも何者なんだ?」
出会って2カ月ほど経ったが、俺は言葉がどこに住んでてどんな家柄なのかも知らない。
「まっいいか。その内言うだろうしな」
俺は部屋に戻って残していったチーズケーキを食べて寝ることにした。
翌月曜日の昼休み。俺は久しぶりに1人で食堂で昼飯を食っていた。
駿と沙織、詩織は今日は弁当だ。
「あの、隣いいかな?」
「駄目だって言っても座るんだろ?」
俺の隣に座ったのは嶺岸有紗。
やっぱり諦めてないんだな、こいつは。
「断ったはずだが?」
「あれくらいで諦めるなら初めから声なんてかけないよ」
「お前さ、そっちの素の方がいいと思うぞ。あのちょっとツンケンしたのはどうかと思うからな」
「ちょちょっと!私そんなにツンケンしてた?」
「ああ、どこの委員長かと思ったぞ」
「・・・仕方ないでしょ?ずっとあんな感じだったんだから」
アリサはそう言ってプクッと頬を膨らます。
「ははは、あんまり無理してもしょうがないぞ」
「な、何よ?やけに優しいじゃない」
「冷たくして、アレになられても困るからな」
「あ、アレって・・・だって・・」
「いくら何でも食堂ではマズイだろ?」
「ううぅぅぅ」
本人も自覚しているのか、赤くなってしまった。
アリサはアリサで可愛いとこもあるんだよな。あのツンケンしたのは正直苦手だと思ったんだが、今のアリサは中々可愛いと思う。
「嶺岸さん!やっぱりここでしたか!」
「ん?」
食堂中に響くような大声で入ってきたのは、なんというのか、王子様みたいなヤツだった。
「げっ、緑川くん!」
隣でアリサが露骨に嫌そうな顔をする。
「何だ?あれ?」
「同じクラスの緑川公平くん。ずっと言い寄られて困ってるの」
「ふ〜ん、そりゃ大変だな」
王子様はほっといて俺は昼飯の続きを食べることにする。
「おい!お前!緑川さんが話してるんだ!ちゃんと聞かないか!」
「聞かないか!」
「なぁアリサ、あれは何だ?」
「緑川くんの取り巻きの、赤田くんと黄島くん」
アリサはウンザリした顔で3人を見て溜息をついた。
「緑川さんがわざわざ来てくれているんだ!」
「来てくれているんだ!」
「静かに話しを聞きたまえ!」
「聞きたまえ!」
なんでエコーなんだよ?こいつらは。
どうやらゆっくりと昼飯を食ってるわけにはいかないようだ。
やれやれ・・・
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