驚の14 柊と嶺岸。


「ちょっと好みじゃないわね」

「そうか?似合うと思うけどな」

俺と言葉は、日曜日なので都心部に買い物に来ている。

言葉に楽しいを教えることの一環だ。


「ミントってこういうのが好みなの?」

「男なら誰しもミニスカートは好きなはずだ」

「・・・なんとなくわかったわ」

「だろ?」

言葉は辺りを見回してため息をつく。


今日の言葉は、黒のミニスカートにニーハイにブーツ。胸元がざっくり空いたニット。

はっきり言ってかなりエロい。

はっきり言わなくてもエロい。間違いなく。

本人はいたって普通なのだが、周りの視線が前回の比じゃない。

足元の黄金比というか絶対領域があまりにヤバい。

身体つきは華奢なのだが、スタイルは抜群なので目のやり場に困る。


「どうかした?」

「言葉、お前狙ってやってるだろ?」

「さあ?何のことかしら」

目を逸らした俺の顔を下から覗き込んで言葉がいう。

ここ最近の言葉は妙に距離が近い。

本人曰く、恋人同士の疑似体験だそうだ。


呼び方もそうだ。学校や家にいるときは、あなたって呼ぶのだがこうして2人で出かけると名前で呼ぶようになった。

だから俺も言葉を名前で呼ぶことにしている。というか呼ばさせられている。


「大丈夫よ、ちゃんと下に履いているから」

「そういう問題じゃないんだが」

まぁこいつがこうやって少しずつでも楽しいって思えるようになってくれればいいか。


「私的には、こっちなんだけど。どうかしら?」

「はっきり言うと何着ても似合うと思うぞ」

「お世辞?」

「いや、本音だ」

そう。と嬉しそうな顔を作ってみせる言葉。


「・・・」

不覚にもドキッとしてしまった。

あれが作り笑いなんだから勘弁してほしい。


結局、言葉は俺の選んだミニスカートを買った。

「今度はミントの選んだ服で来てあげるわね」

「そりゃ楽しみだな」


しっかりと手を繋いでセンター街を歩く。


「なぁ言葉」

「何?」

「少しは楽しいって思えるか?」

「わからないわ。でも・・・こうしていることに嫌悪感はないわね」

繋いだ手を見てそう呟く。


「今日はあとどこに連れて行ってくれるのかしら?」

「そうだな・・・あそこなんてどうだ?」

俺は少し遠くに見える高いビルを指差す。


「あれは?」

「市役所だ」

「市役所?そんなところに何かあるの?」

「まぁ行ってみてからのお楽しみだな」


そうして2人で歩いていた時のことだ。

不意に声をかけられた。


「もしかして柊さん?」

オープンカフェのテーブルから声をかけてきたのは、先日の真面目ちゃんこと、嶺岸なんとかだった。


「あら、嶺岸さん。ご機嫌よう」

言葉はいつもの笑顔で答える。


言葉は繋いだ手を離す気配もない。

はぁ、こいつ全く隠す気がないな。

俺は内心ため息をついたものの今更かと思い直す。


「よう、嶺岸なんとかさん」

嶺岸なんとかさんは、俺と言葉を交互に見てからしっかりと繋がれた手を凝視している。


「どうかしたかしら?嶺岸さん?」

言葉は平然と話しかける。

「えっ?いや、柊さんが男性と一緒にいるところを始めて見たから」

「そうだったかしら?紹介しておくわ。彼は一ノ瀬眠都君、こちらは嶺岸有紗さん。どちらも面識はありますわよね?」

「おい、言葉。多分そういうのを聞きたいんじゃないと思うぞ」

「あら、そうなの?」

「ああ、多分これだ」

俺は繋いだ手をあげてみせる。


「・・付き合ってるの?」

「いいえ、そういうのではありません」

「いいや、ちょっと違うな」

嶺岸さんの問いに俺と言葉の返事が重なる。


「えっ?でも・・・」

そりゃそうだな、側から見たら仲睦まじい恋人同士に見えるだろうさ。

「ねぇミント、彼女は何を言ってるのかしら?」

「あのなぁ、普通こんな風に手を繋いで歩いてたら付き合ってるって思うだろ?」

「そういうものなの?」

「そういうもんだ」

俺の耳に顔を近づけて話す様子も逆効果だと思うがな。


「付き合ってるわけでもないのに名前で呼ぶくらい仲がいいんだ?」

「あら、私が彼と仲良くしていたら何か問題でも?」

「そうじゃないけど、ほら?柊さんは色々と目立つでしょう?」

2人は、じっと互いの目を見つめ続ける。

俺の目の前で、何故だか静かな女の戦いが始まっている気がするのは気のせいなのか?


先に目を逸らしたのは嶺岸さんの方だった。

「すみません。一ノ瀬君、お邪魔したようで」

「いいや、別にかまわないぞ」

「ミント、いきましょう。時間がもったいないわ」

「あ、ああ」

「それでは、嶺岸さん。また」

「ええ、お楽しみの邪魔をしてごめんなさいね。柊さん」


言葉は俺の手を握って振り返ることなく歩きだした。

「おい、あれ大丈夫なのか?」

「何がかしら?」

「明日学校行ったら噂になってるとかないだろうな?」

「ああ、心配ないわよ。彼女は言いふらしたりしないから」

言葉は、ちらっと後ろを振り返って続ける。


「彼女、良くも悪くもいい人だから」

「そういうことか」

「ええ」

見た通りの真面目ちゃんなわけか。


俺と言葉は、それ以上は何も言わずに市役所に向かって歩いていった。






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