嬉の7 信頼されているのか?
俺の通っている学校の朝は早い。
朝練がある部活は夏場なら5時半頃からもう練習を始めている。
特に野球部と女子弓道部は全国大会の常連で優勝経験もある強豪校だ。
「なあ、お前部活はしてないのか?」
「しないわよ。メリットがないもの」
「はぁ、夢のないヤツだな、お前」
「あのね、あなただってしてないでしょ?そんなあなたに言われるのは心外だわ」
「俺は生活のためにバイトをしているからな。同じ汗水流してするんなら金になるほうを選ぶのは当然だ」
部活してたらバイト出来ない。イコール生活出来ない。
「もっともらしい理由みたいに言ってるけど、それってメリットがないってことでしょ?同じじゃない」
「それはそれ、これはこれだ」
とこんな感じで俺と
放課後のここから見る景色は本当に絶景だ。
「そういや、あの時なんでお前はここにいたんだ?誰かいるなんて思わなかったから驚いたぞ」
「あの時?ああ、あなたと会ったときのこと?中等部の時からたまに来てたからよ、落ち着くのよね。なんとなく」
言葉は中等部からそのまま高校に上がった部類か。
「あなたはどうして?普通こんなところ誰も来ないわよ」
「俺は散歩しててだな。何となく目についたから上はどうなってるのかって思ってな」
「へぇ、何とかは高いところが好きって本当なのね」
「それ、お前もだぞ?」
会話が途切れて2人であの時のように、夕陽を見つめる。
「なぁ」
「何?」
「お前って料理出来るか?」
「当たり前じゃない。言っておくけど私の女子力は高いのよ」
「意外だな。料理なんかしなさそうだけどな」
「失礼ね、女の子として当然よ。それで何かあるの?」
「いや、一人で暮らしてるとコンビニか外食ばかりになるだろ?だから料理くらいは出来ないとなって思ったわけ」
「ああ、そういうことね」
駿も詩織と沙織もある程度なら出来るって言ってたからな。
「仕方ないからちょっと覚えないとなって」
「ふ〜ん」
言葉は、変わらず無表情で夕陽を眺めている。
「あなた一人暮らしなのよね?」
「さっきそう言ったが」
また、ちょっと沈黙が流れる。
「たまになら、作りに行ってあげるわ」
「へっ?」
「だから、たまには作ってあげるって言ったのよ」
「なんで?」
「なんとなくよ」
これは喜ぶべきなのか?確かに料理は出来るんだろうけど、出来るだけってこともありうる。
その前に、ほいほいと一人暮らしの男の家に来るってどういうことかわかってるのか?こいつは。
「そりゃ俺は助かるけどいいのか?」
「どうして?」
「一応俺も、男だぞ。一人暮らしの男の家に来るってのは色々まずくないか?」
「あら?襲うつもり?」
「んな訳ねーよ」
「ならいいじゃない。あなたといると色々と教えてくれるんでしょ?メリットはあるから」
「win-winってことか?」
「そうなるわね」
そんなものか?ある意味信頼関係みたいなのが出来ているんだろうか?
とりあえずこれで俺の食料事情は改善されると考えていいんだろうか?
「ところであなたどこに住んでいるの?橋の下?」
「なんでだよ!クレセントって雑貨屋知ってるか?」
「ええ、何度か妹と行ったことがあるわね」
「その裏だ」
「物置?」
「裏のマンションだよ!お前、真顔でボケるのやめてくれ。本気っぽくてツラくなる」
そう?本気かもと言って悪戯そうな笑顔を作る言葉。
たまに表情を作るからわからなくなるんだよな。
「妹いるんだな?妹は普通なのか?」
「あのね、私がおかしいみたいな言い方やめてくれる?」
「なら、少し変わってる?くらいか」
「・・・もういいわ。あの子はそうね。ある意味普通だと思うけど色々と残念な子ではあるわね」
「なんだそりゃ?」
「あら、こないだあなたに会いに行ったでしょ?帰り道のグラウンドの前くらいで」
グラウンドの前?
あっもしかして。
「あのボクっ娘か!」
「ボクっ娘って・・まぁそうね。残念だったでしょ?」
「ははは、委員長みたいな子に引きずられて帰っていったからな」
「チリちゃんね。中等部の生徒会長よ」
「見たまんまなんだな」
「あの子たちは小学校からの親友だから、
あのボクっ娘は杠葉って言うのか。
「私と同じで美少女だから、変な真似したらいけないわよ」
「自分で言うなよ。可愛い子ではあったけど流石に中学生には手を出したりはしねーよ」
「それもそうね。もっとも杠葉もあなたには興味ないでしょうけど」
「あら、もう下校の時間なのね。すっかり話し込んたでわね」
「ああ、ならそろそろ帰るか」
鉄塔から見る夕陽は、地平線へと顔を半分隠している。
じゃあお先にと言葉は先に鉄塔を降りていく。
俺は言葉が屋上から出て行くのを見届けてから鉄塔を後にした。
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