第28話 八島奇譚 其の参 殺人剣
ガーディアンズ、超能力者集団、戦後日本に暗躍し続ける謎の組織、10数年前に起きた渋谷大火炎にも大きく関わっていたとされる。
ネットで注文したオカルト雑誌
学校の授業でも習った。10代の少年少女を中心として組織されたテロ組織あらがいの団、そのリーダーであった少女の名が瑞浪空なのだ。あの女性は顔に大きな傷を負っていた、空の当時の写真にどことなく面影も無くはないが同一人物と言い切れるほどではない、何しろ記憶が曖昧だ。時間にしてほんの数十分の出来事なのだから。
問題なのは彼女を殺して消えた2人の方だ、奴らには 見たことを誰にも喋るなと脅されている、もし喋れば殺すと、そして監視し続けると。
このまま、すべて忘れてなかった事にすれば安全なのだろうか、そんな筈は無い、あんな奴らを信用出来ない、何より一生怯えながら生きていくなんて真っ平御免だ。最悪 私はどうなっても構わない、父もまあいいだろう、だが母とその子供達だけは絶対に巻き込んではダメだ。早急に手を打たねば。
ガーディアンズなる組織がどの程度の規模の組織なのかわからないが女性は警察内部にも仲間がいると言っていた。なら警察は頼れない、自分でどうにかしなければ。私の顔を知っているのは今のところあの2人だけの筈だ、私に見られたのは明らかに奴らのミスだろう、あいつらが自分のミスを上に報告するとはそうそう思えない、今ならまだ間に合う筈だ、あの2人さえ始末してしまえば私は日常と家族の安全を取り戻すことが出来る。やるしかない。
女性の話しでは2人は瞬間移動を使う、2人が互いの手のひらを合わせることを起点として磁石のように反発したり引き寄せたりするらしい、ネタがわかっているのなら 何か対処する方法が必ずある筈である。幸い考える時間なら無限にある。それこそ何万年でも。
考えてみれば私のこの時を静止させる能力も超能力なのだろうか、しかし、もしそうなら余りにもジョボすぎる、こうして時を止めても考えること以外何も出来ないのだから、自身の内側ですべてが完結してしまっているではないか。自分の内側で時間が静止しているだけで外側では確固たる正確無比な時間が流れているのだ、せいぜい相手がどう動こうとしているのか観察出来るくらいだ。
だが、そんな弱音を吐いても仕方ない、私にはこれしか無いのだから有効活用するしかないのだ。とにかく考えろ。
それから女性が最後に言った言葉が気にかかる。もしもの時はセブンスマートのユウリ君を頼れと。数週間前に道場を訪れたあの男はウリンバラユウリと名乗った、そしてセブンスマートと印字されたボールペンを落としていっている。彼女の言ったユウリ君とはあの男のことなのだろうか、確かに二つ先の駅にセブンスマートという名のコンビニはあるようだ、マイナーチェーン店らしく都内にはその一軒しかないようで、あの男が訪れた翌日にはすでに確認してある。偶然にしては出来過ぎた話しではあり、逆に気味が悪い。何度か会いに行くべきか悩んだが、もし奴らの言葉通り私が監視されているのなら迂闊な行動は禁物である。何が命取りになるかわからない。ここは1人で怯えている か弱き女の子を演じる必要がある。反撃の準備が整う迄は。
1週間後の深夜。
「 あっちゃぁ 」
「 何考えてんのお前 見逃してやったよね 俺らは別に犯罪組織ってわけじゃ無いの あの女はルールを破ったから処分された ただそれだけなんだよ 」
「 貴様らのルールなんて信用できない 」
”ガーディアンズの瞬間移動の2人 例の工事現場で0時に待つ” とネットのオカルトサイトの掲示板に書き込んだのだ。
「 まあ俺らもこれ以上失態犯すわけにはいかないから一時的に見逃しただけで ほとぼりが冷めたらお前はどうにかするつもりでいたんだがな 」
「 で どうするよ 」
「 ヤルしかないだろ 」
「 もったいなくネ 」
「 バカか 上にバレたらどうすんだよ だいたいあの女の件も俺らに原因があんだぞ バレたら俺らが処分されんだろうが 今日のこいつの書き込みだけでも相当ヤバいんだぞ 」
「 わぁったよ じゃあちょちょいと終わらせようぜ 」
来る。
竹刀を手にしたユキから10mくらいの距離をとり対峙した2人の男が背中から畝ったような奇妙な形状をした刃渡り50㎝ほどの刃物を抜き放った。刃の形から斬る為のものではなく 突き刺す為のものだと見て取れる。薄明かりの中 ぬらりと青黒く刃物が揺らめく。
男らは外側の手に刃物を持ち内側の手をスッと真横に押し出し互いの手のひらをそっと合わせた。と、その瞬間、青白い火花がバチッと音を立て2人の男が一瞬に搔き消える。
ユキは竹刀を脇に構えキュッと唇を噛みしめた、そして時間を凍結させる。
青白く凍結し 静止した時間の中には2人の男の姿をユキの視界は捉えていた。
ユキは考えたのだ、引き寄せあったり反発したりするのではなく、引き寄せあう為に反発するんだと、物凄いパワーで反発させてその力をある一点で引き寄せる力に反転させる、反発は向かって来る為の予備動作なんだと、ならばそれは瞬間移動ではなく超高速移動だ。
男達は既にスタート地点から5mほど両サイドに弾かれた形だ、ユキからも5m、おそらく力が反転する地点、ここからユキに突っ込んで来るはずだ。この一週間にユキがした事の一つがシュミレートである、高速で自分に向かって来る者を迎え撃つタイミングのシュミレート、何千回いや何万回とやった、もちろん時間を静止させた時にすでに目の前にまで到達していたら完全にアウトだったのだが、これならいける。
そしてもう一つは あのウリンバラという男が見せた剣を真横に払う技だ、いくらタイミングを合わせても縦に振り下ろす点の攻撃では当たらない、しかも相手は2人だ、面の攻撃が必要だ、ウリンバラの技は打ってつけだった、なんか癪だが仕方ない、あのシーンは静止した時間の中で目に焼き付いている。実際は剣は振り上げられたのだがその事は今はどうでもいい。必ずものにしてみせる。
さあ来い。
静止した時間が
真剣を竹刀で覆い隠していたのだ。ユキの家は剣術道場である、真剣の一つや二つはあるだ、もちろん 普段は鍵のかかったケースに飾られているだけなのだが、ユキが模造刀とすり替えて持ち出したのだ。
しかし何だ、今の金属音と硬い感触は、2人の腹部を纏めて真横に切り開いた筈だ、当たり前だがユキは今迄 真剣で人など斬ったことは無い、それでもわかる、今のは人を斬った手応えではないと。
「 あっぶねぇなぁ やっぱ兄貴の言う通りだったな 装備しとかなきゃヤバかったぜ 」
「 当たり前だろ わざわざ自分から呼び出すんだ 勝算があるからだろ 」
立ち上がった男らの腹部には斬り裂かれた衣服の隙間から金属製の防具が見えていた。
「 しかし今のどうやった 」
「 ああ 完全に捉えていたな こいつ能力者か 」
「 さあな だが俺らはそれなりに場数を踏んで来てんだ 素人相手にひけはとんねぇぜ まあ経験の差ってやつだよ 悪く思うなよ 嬢ちゃん 」
そう言うと男らの口もとが歪に吊り上がる、と同時にその場から搔き消えた。
まずい 反応が遅れた 早く時間を停止させなきゃ
ユキは自身の攻撃が相手にまったく通用しなかったことにパニクっていた。こんなはずじゃないのに。そんなユキを見逃すほどヤワな相手ではなかった。
ユキが慌てて時間を停止させた時、既に男らはユキの1mほどまでの距離に迫っていた。
どうしよう ここまで迫られたらもうムリだ 時間を解いた瞬間にヤツらの手にした刃物に突き刺さされてしまう 考えるまでも無い もう手遅れなのだ それなら時間を永遠に凍結させて凍結した時間の中に引き篭もってしまおうか この目前に迫った自分を殺そうとしてる凶悪な二つの顔を永遠に眺めながら そんなの嫌だ 絶対に嫌だ どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう
突然、何者かにセイラー服の後ろ襟を掴まれ勢いよく強引に後ろに引き下げられる。凍結した時間が音を立て砕け散った。ユキの目の前数㎝を男らの刃物が交差する。そのままユキは地面に強く叩きつけられた。
「 なんだ テメーは 」
1人の男がユキの前に立っていた。
「 やあ また会ったね 八島流君だっけ 」
そう言うと長髪の男はユキの手にしていた真剣を左手で拾い上げる。
「 誰だって聞いてんだよ 」
「 君たち 同じ顔だね 双子かい ソラはね 名前とは違って実は海が好きな子だったんだ 知ってたかい 」
「 貴様 あの女の……
「 ガーディアンズなんてやめろって言ったんだけどね 結局僕の言うことなんて最後まで何一つ聞いちゃくれなかった 」
男の手にある刀がドクンと脈打ち妖しげにギラついた。
「 用心しろ こいつは俺らと同じ裏の世界の人間だ 」
「 同じ 笑わかせないでくれるか 双子君 」
「 テメェ 」
「 行くぞ 」
双子の手が合わさったと同時にその場から搔き消える。と同時に男の両脇に現れた。
速い 私の時とスピードが桁違いだ
が、双子が現れた時には既に男の刀は低く真横に払われていた。
ドシャリ と、2人だったはずのものが4つの物体になり地面に崩れ落ちる。
ピンポ〜ン♪
「 いらっしゃいませ 」
「 あのぅ 」
「 あっ すいません ウチは唐揚げとかやってないんですよ 」
「 いや そうじゃなくって 」
「 おでんもないですよ 」
「 いや 違うっくて 」
「 未成年にタバコは販売出来ません 」
「 ……こちらにウリンバラさんっていませんか 」
「 ウンバラバ?」
「 いえ ウリンバラです 」
「 …… 」
「 ウリンバラ 」
「 ハロー 」
なんなんだ この小動物みたく可愛らしいわけのわからん店員さんは。
「 あのぉ 他に誰かいらしゃいません 」
「 店長ぉ〜 なんかお客さんですよ 」
「 何言ってんだ月夜君 ウチはコンビニだよ そりゃお客さんはくるだろう 」
「 それが外人のマリンバさんって方で もしかしたらバイトの面接かもですよ 」
「 やめてくれよ 僕 外国人チョー苦手なんだけど この前もさ 木刀持った変な外国人たちに囲まれて大変だったんだから……あっ えっとぉ 八島流君だっけ 」
「 八島ユキです 」
「 はい 八代亜紀さんです 」
「 違います 八島ユキです 」
「 とりあえず バックルームで話そっか 月夜君 コーヒーお願い 」
「 ラジャー 」
私は店内のレジカウンターの奥にあるバックルームに通された。
「 よくここがわかったね 」
「 道場にここのボールペンが落ちてました あと瑞浪空もセブンスマートのユウリ君を頼れって 」
「 げっ マジで しくじったなぁ で もしかして畳の代金の請求に来たの あっ 君のパンツ見たのはワザとじゃないから 事故だから 断固として無実を主張する 」
「 ごまかさないで あのあと あなたは消えて私は怖くなって逃げ出した ニュースでは何も報じられない 工事現場も以前通り どういうことなの 2人の人間の死体はどうなったの 」
「 ヤツらはそもそも裏の世界の人間だ 表側では存在しないことになってる もともと存在してない人間がどうなろうと誰も気にも留めない そういうことだよ 君には関係ない話だ 」
「 関係なくない 」
「 いんや 関係ない 」
「 関係なくない あなたは誰なの 」
「 君には関係のない誰かだ 」
「 違う 関係ある 私を弟子にして 」
「 えっとぉ 」
「 約束通り あなたの要求にはどんな恥ずかしいことでも応えるわ 好きにして だから私を弟子にしなさい 」
「 あのぉ そんな約束 した記憶がまったくないんすけど 」
「 女の子がなんでも言うことを聞くって言ってるんでしょ( やめなさい八島ユキ )男なんだからうだうだ言わずに( 私はクールなはずでしょ )とっとと弟子にしなさいよ( あぁあ 泣いちゃった みっともない 私は何をやってるの )」
「 あァァッ 店長ナニしてるんですか 警察に通報しますよ 」
「 いや これは違うんだ月夜君 えっとぉ ユキ君 とりあえずウチでバイトする 」
「 はい( ぐすん )」
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