第11話 葛籠
それは異様な光景だった。立方体の建造物の内部には赤茶けた鳥居が3つある、鳥居と言っても私達が見慣れた物とは少しばかり形状が異なっている様に思える。その3つの鳥居の端が隣り合わせて三角形を形作っている、そしてその三角形の鳥居の中心部に祭壇の様な物が
そして、最も異様なのはその周りを取り囲む5人の僧侶である。いや違う、5体の僧侶のミイラだ。
「 クソッ これは参ったな 」
「 これって会長が葛籠と一緒に坊さんごと閉じ込めたってことっスか 」
「 どうだろうな それだと大量殺人事件になってしまうぞ 坊主のミイラの状態から即身仏に近いと思うんだがな 」
僧侶のミイラは皆 葛籠を取り囲み祈る様な姿で朽ちている、着ている法衣からそれなりに位の高い僧侶達のように思われる。
即身仏とは瞑想を続けながらそのまま絶命してミイラになる事を言うらしい、このミイラ達は葛籠に何を祈りながら生き絶えたのだろうか。
「 しかし 葛籠と言うより玉手箱に見えるな 」
小夜も私と同じ感想を持ったらしい。
「 まあ葛籠と呼んでいたんだから植物で編まれてはいるんだろうが 表面を動物の皮か何かで加工しているのかもしれんな 」
私は小夜の話しを聞きながら、無意識のうちに鳥居を潜り、僧侶の脇をする抜けて葛籠に近づこうとしていた。
「 おいツク あんまりそれに近づくな 」
ガタン、ゴソッ…… 葛籠の中から音がした。
「 えっ 」
私は背後から襟を掴まれ そのまま思いっきり後ろに引かれた。見ると それは小夜だった。
「 聞こえたか 」
「 はい 聞こえました 」
私は我に返って小夜に返事をする。
「 気をつけろ まだ 中にいるぞ 」
と、その時、何かが動いた。
私達3人はいっせいに身構える。動くものはここではない、屋外だ。
「 君達 何をしている 」
地面から50㎝ほどのシャッターの隙間から警察官が顔を覗かせた。
警察署から解放されたのは翌日の明け方になってからのことだ。もし誰かに事情を聞かれた場合の打ち合わせは事前にしてあった。それは 本当の事を話す だ。ただ、祖父の話しのままだと、私達が頭のイカれた集団と思われかねない。だから以前 小夜が考察した
戦後、祖父と
と言うものだ。祖父の話しを鵜呑みにするより、こちらの方がよほど現実味があるように思われる。
「 何をやっている三刀 貴様らしくもない 」
身元引受け人としてやって来た車田の黒のボックスワゴンの中に私達はいた。
「 すまん しかし死体が出るとはまさか思わんだろう お前は何も聞かされてなかったのか 」
三刀小夜が車田に問い返す。
「 ああ 私は10年ほど前に一度行ったきりだ 倉庫内に入ることは禁じられていた 」
「 そもそもあそこは何時出来たんだ 」
「 トリオイが創業して間も無くと聞く 3棟のうちの2棟は実際に危険な薬品類の保管に以前は使われていたらしい 昭和末期までは使用していたはずだ あそこより奥にトリオイの研究施設があるしな 」
「 ツク 警察にはどう説明した 」
「 小夜さんが考えた通りに ただ 鳥狩から預かったのは葛籠ではなく葛籠を納めたあの立方体の建物としました 」
「 上出来だ 海乃はどうだ 」
「 俺は班長に取材と言われ無理矢理連れて来られただけだと 」
一同が驚いたように海乃の顔を見る。
「 どうした海乃 雨が降るぞ 」
「 いやいや 俺だってそんくらいの機転利きますって 」
海乃がみんなの評価に不満を漏らす。
「 私もハナっから信じてなかったんで大まかな内容しか知らんと説明した これで警察にツクの説明が不自然に疑われることはないだろう 」
「 で 三刀 これからどうなると思う 」
「 ミイラの状態を見る限り事件性は無いと思うよ ただミイラの死亡時期が死後50年とかだと話しが厄介になるぞ ツクや私達がどうとかなる事は無いが
「 わかっている お嬢様にさえ害がなければ何の問題も無い 」
車田に人前でお嬢様と言われて居心地が悪い、もう20歳だからお嬢様でも無いと思うのだが、かと言って月夜様も嫌だし、今更 車田が月夜ちゃんとか月夜さんとか呼べるはずないし、困ったものだ。これでも名義的には
「 それで例の葛籠はどうだった 」
車田の問いかけに私達3人は固まってしまった。あの時、聞こえたのだ。葛籠の中で何かが立てる音を あれはそら耳ではないはずだ。
「 確認は出来なかった だからなんとも言えん 警官が来たタイミングが悪すぎた 」
小夜が煮え切らない感じに答える。
「 どうして警察が来たんだ 」
「 わかんないっス 私有地に入るとこは誰にも見られてないっスよ 俺 チョー警戒してたから 」
「 だな だいたい鍵を掛けていた 警官が入って来ようと思ったら鍵を壊すか柵を乗り越えるしかない 警官はパトカーで来ていた つまり ゲートを開けている 私有地だぞ 令状もなくそこまでやるか 」
「 じゃあ警察は俺らの事 何か知ってて行動してたってことっスか 」
「 いや ゲートを開けて絶妙のタイミングで警官を招き入れた何者かがいると私は見ている 」
「 それは何者だ 三刀 」
「 わからんよ ただ手際が良すぎる 狙いは葛籠じゃないだろうか 」
「 でも 警察に押収されましたよ 」
「 されたんじゃなくて させたのかもしれんぞ もしそうなら その後にどうにか出来る人物となるがな やはり特級戦犯と言うのはハッタリでは無いのかもしれん 」
「 なんかヤバくないっスか 」
「 いや それなら力尽くで奪えばいいだけだ 警察を介入させている以上 向こうも私たちをどうこうする気はないのだろう 葛籠を正攻法で入手する それがミッションなんじゃないのか 」
「 これからどうする 三刀 」
「 葛籠が目的ならくれてやればいいじゃないか 私たちの目的は葛籠を処分することだろ これでツクの手から離れたんなら好都合じゃないか どっちみち警察の目がある 当分大人しくするしか無いだろう ツク お前はしばらくニコニコマートでバイトに勤しめ 動きがあれば連絡する 」
「 了解です あとセブンスマートです 」
( 都内某所 )
「 すんなりいったわネ♪ チョロイチョロイ 」
「 ッたりめぇダ この国のグズども相手のくッだんねェ仕事だぜ アクビがでちまう で これからどうすんのよ リサ 」
「 ちょっとトーマ 少しは自分で考える 」
「 苦手なんだよ 知ってンだろ 」
「 ぶんどるに決まってるでしょ 私たちには権利があるのよ この国の負け犬どもから好きな時に好きなだけぶんどっていい権利がネ♪ 」
「 ハッ そりゃいいや ワンワン 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます