「また会いに来たよ」

新吉

第1話 「また会いに来てたの」

 春はまだ青いか

 薔薇香る憂鬱

 春香る青

 薔薇はまだ香るか



「また会いに来てたの」



 ここは綺麗な薔薇が有名な林の間の喫茶店だ。彼はアメリカンコーヒーを飲んでいる。三杯目のおかわりを頼むのはこの人くらい。まあ彼は優しいが人ではない。彼は今人を待っている。美人で清楚な普通の人間だ。この喫茶店はいろんなものが集まる。来るもの拒まず去る者追わずのマスターが彼に話しかける。



「今日もあいにくの天気だよ」


「そうだな」


「今日は来ないんじゃないかな」


「なんでわかる?」


「いやなんでもないよ、失礼しましたお客さま」



 入り口が開くたびに振り返る大きな体。普通の人には見えないがカウンターに座っている。



「空が青色なのは、落ち込んでいるときに一緒に溶けるためだと思う」



 驚いて巨体は隣を見る。しかしそこには小さな小鬼がいた。キャハハと変な顔の巨体を笑う。



「お前なあ」


「落ち込んでるの?大きいのに?」


「大きさは関係ない」


「あるだろ?力強いじゃんかー」



 ひょいっと背中に登る小鬼をゆっくり下ろして、カウンターのテーブルに座らせた。彼は大きな体を縮こめるようにつぶやく。



「弱いよ」



 小鬼は彼の顔をのぞき込む。上目づかいの子鬼の角を微笑みながらつかむ。



「頭のぞくのやめろ」


「お客さま、注文は?」



 見かねたマスターが小鬼に声をかける。



「ツッキーと同じやつ」


「苦いぞ?」


「甘くすればいいでしょ」



 青い空も薔薇の香りもない日だったがコーヒーの苦味に満ちていた。

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