第4話、ヒロイン観察記録、その2
どうやら、このマイクロバスには補助席を使わず二人ずつちょうど座れる計算になるらしい。
つまり、余ることなく必ず誰かと相席になるということだ。
しかし問題は、天文部の男女比率は半々であるというのに、奏のように同性同士で座るペアがすでに多数見受けられることである。
このままでは、男が余って男同士で座るはめになってしまう。
これは、何としても避けたいところだ。
そんなことを考えていたその瞬間、俺の鼻に濃厚な香水の刺激臭が襲い掛かってきた。
そして、俺の腕がグイッと力強く引っ張られ、手首に鈍い痛みが走る。
「イテテッ! ちょっと何を……」
言いかけた俺の口が、半開きのまま固まる。
強引に掴まれた腕が、柔らかいものに触れたからだ。
それは、固めの布地に包まれた手のひらくらいの大きさの脂肪の塊。
つまり、おっぱいの感触だった。
途端に、思考がまとまらなくなる。
「ねえ、アンタ。車酔いとか平気でしょ?」
鋭い目をした顔が、俺の顔を値踏みするように見つめていた。
膝の出た短いスカートや、大きく開いた襟元を見るに、間違いなくギャルといった風貌だった。
彼女に睨まれて、俺は視線を逸らした。
まるで、蛇に睨まれてた蛙の心境だ。
捕食者と、その餌という抗えないヒエラルキーを感じてしまう。
「平気でしょ? 平気だよね。じゃあ、アタシの隣座ってよ! 窓際じゃないとムリなんだよ」
そう言うと、ギャルの子は俺の手を引いてそのままバスへと乗り込んでしまう。
「ここにする。前の席じゃないとアタシさ、ムリだからさ」
彼女は、運転席のすぐ真後ろの席へと腰をおろした。
観念した俺は、彼女の隣に座ろうとする。
……と、彼女の長い脚が伸びてきて、俺を座席から蹴落とした。
「何すんだよ!」
「アンタの席はこっち」
彼女は、妖しい笑みを浮かべながら一つ隣の補助席を出した。
「ほら、アタシ席二つ使わないとムリなんだよ。ごめんごめん。後でちゃんと埋め合わせするからさ。あっ、アタシの名前は
「俺は、日比谷学」
俺は逆らう気にもなれず、飲み込むようにそう呟いた。
それから、天文部の生徒たちが全員乗り込み、バスが動き出す。
隣の瑠花はというと、不機嫌そうな顔で二席を占領したまま、黙り込んでしまった。
そのまま、一切会話はない。
他の席はというと、
まるで俺と二人だけ、狭いバスの車内で隔離されているような感覚だ。
正直、ちょっと寂しい。
「あの……瑠花さん?」
俺は勇気を出して声をかけてみた。
「瑠花さんって何組? あんま見たことないと思うけど……あっ、俺は二組」
返事はない、無視である。
なるほど、ギャルというのはこういうものか、都合よく利用されただけなんだな、と思ったその時、隣の瑠花が顔をこちらに向けた。
瑠花の顔は、酷く青ざめて、何かを訴えるような表情を浮かべている。
「あの、瑠花……さん?」
瑠花は唇を固く結んだまま、小さく顔を左右に動かした。
「もしかして……具合悪い? あっ、……ひょっとするとバスに酔ったかんじか?」
瑠花は俺の声に頷いたと思った刹那、そのまま身体を倒して、こちらへと持たれかかってきた。
俺は、彼女の重さに感じながらも、またも押し付けられたその胸の感触に困惑せざるを得なかった。
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