竹樺第三高校風紀委員会の絢爛たる反逆と主戦略
須賀川乙部
00 風紀委員たちの戦略
必ず、かの
特に顕著な欠点が、生徒会にあるわけではない。
しかし、高校生特有の「強い者にはとりあえず逆らいたい」という世代的な感覚と、「自分より偉そうにしている人間がいるのが許せない」という七味自身の性格は、生徒会の面々に特に理由のない憎悪を抱かせるには十分だった。
そして、当の生徒会長が「完璧超人」と呼ばれていることも、彼女の反逆心を長引かせる一つの要因となっていることは確かだ。
敵は強く大きい方が、燃える。
この気持ちだけで、七味は高校生の委員会の中では、一般的には有力であるとされている風紀委員に、わざわざ自分から立候補してしまったし、そこで副委員長という職にもついてしまった。
そして、今、代田橋七味は夢想している。
自分が「裏生徒会」の会長として、いつの日にか現在の生徒会を打倒し、自分が生徒会長として、この高校に君臨することを。
その目的に向かって、突っ走ることに燃える彼女は。
「生徒会長には、実際にはそんなに権限も威厳もない」ということに気づくほど、現実的な試行は出来なかった。
◆ ◆ ◆
髪にはストレートパーマをかけているし、制服のシャツの中には黒いTシャツを着用している。通学は、余程のことが無い限りはバイクで。
どれも、校則ではっきりと禁止されている行為である。
校則を破ると、いろいろと面倒なことが起こる。
それは生活指導の教師の指導であったり(丸亀はこの教師のことを、その風貌から「ゴリパン」と呼んでいる)、風紀委員から食らわされる説教であったり、等々。
だから、彼女は考えた。
自分に風紀を守る意思はない。
だが、自分が風紀になればいい。
自分が風紀委員として取り締まる側になれば、あの風紀委員からの眠い説教だけは回避できる。
それが、彼女が風紀委員に立候補した理由だ。
ただ、風紀委員会の中で彼女が書記職に推薦された理由が、「見た目の割に文字が可愛い」からだということは、本人は全く気付いていない。
◆ ◆ ◆
この近辺で、「枯葉のお嬢様」という言葉が指すものを知らないという人は、まずいないだろう。日本を代表するコングロマリット・枯葉グループは、財閥解体後の現在でも相も変わらず「枯葉財閥」と呼ばれており、また実体も相も変わらず財閥であったころと変わってはいない。
枯れることなき、無限の繁栄。
多くの人は、枯葉グループをそう称する。
そして、その現在のトップに君臨する
薫風のベッドは、一般的な住宅の部屋の大きさ。薫風の部屋は、一般的な住宅の一軒分の大きさだ。
しかし生まれた時からこの環境で育った薫風にとっては、一般的な住宅の一部屋が「ベッドの大きさ」、住宅一軒が「部屋の大きさ」なのである。
そんな薫風に、「なんか会社の社長の娘さんだし(言い出した張本人はそう勘違いしていた)、経営とかできるでしょ」などと言って、会計の仕事を任せたのは、完全に間違いだったとしか言えない。
もともと、薫風が風紀委員に入ったのだって、「学校の風紀を守るため」ではない。大学受験の時に、少しでも有利に働くようにするためだ。
そうすれば、親の言いなりになって大学選びをせずに済む。
ただ、この学校で風紀委員になったところで、特にメリットはないことに、若干天然の気がある薫風が気づくのは、かなり先のことになりそうだった。
◆ ◆ ◆
エリーゼ・ジャガーソンの日本語の知識は、かなり偏ったものであることを、最初に言っておかなければならない。
日本のアニメや漫画に触れて、日本語を学んだ――そこまでは、外国人留学生にありがちなタイプではある。
しかし、それが日本のネット掲示板であったり、あるいはゲーム実況動画や怪しげなゲイビデオが跋扈する動画サイトであったり、テンプレの冗談と罵詈雑言が飛び交うSNSであったり――。
そんな偏った日本語の知識と、両親が日本に転勤する直前に「格安日本語教室」という看板が掲げられたいかにも怪しげな日本語学校で、二週間足らずで学んだ曖昧な語学力だけで、エリーゼ・ジャガーソンは勇猛果敢にも、この日本にやって来た。
両親の転勤が、本当にいきなりの事だったのもあるし、そのために日本語学校の学費が(その怪しい学校以外は)払えなかったのも理由である。
しかし、日本に来たところで、大体のコミュニケーションがそれで済んでしまう、というのも理由の一つだ。
それで済ましていたために、転校して最初のクラスであだ名が「魔剤の子」になってしまったのは、エリーゼにとっては計算外であったが。
◆ ◆ ◆
何しろ、高校三年生にもなって、自分のことを「超人」だと豪語しているのである。
風紀委員という仕事にも、「なんか強そうだから。超人である私にはふさわしい」という理由だけで立候補した。しかしそれでも一応生きては行けるのが、神無論奏の凄いところである。
奏が、周囲の人間に比べて、基本的な能力で優れているのは確かだ。成績も学年十位以内には必ず入っているし(一位になるのは毎回、生徒会長の
ただ、奏が同年代かそれよりちょっと下の女子たちから憧れを抱かれる要素は、何一つとしてない。
常に額には油性サインペンで「超人」と描いているし(しかも毎朝それを描きなおすという力の入りよう)、私服といえばジャージが三着(奏は「超人ジャージ」と名付け、それを着ると力が百倍になると語っているが、そんなのを信じる友人は誰もいない)、そんなこんなで持ち前の美形さをことごとく台無しにし、その上男口調で声も大きく、何より行動に見境がない。
あまりお近づきになりたくない人間というのが、多くの人の統一見解であろう。
それでも嫌われてはいないのは、不思議なことだ。
奏も、そのくらいのことは考えている。
――その不思議に対して、奏が「私が超人だから」という答えをすでに用意しているに過ぎない。
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