ある朝、目が覚めると
柏井 はじめ
転生童話
日本猿の話
ある朝、目が覚めるとサルになっていた。テナガザルやマーモットではない、由緒正しきニホンザルだ。どうやらまた童話の世界に転生してしまったようである。以前も経験があるため差ほど驚かないが、元の世界がどうなっているか気になるし、この後の展開も気がかりだ。なにせこの転生世界、私自身の自由意志はなく、物語の登場人物として、役割を果たす事でしか元の世界に帰ることができない。もしも、この世界のままでも良い、と思えるような役がもらえた暁には転生人生を歩んでも良いが、今回も願い下げである。なにせサルなのだ、人生とは呼び難い。別にサルの猿生をバカにしているわけではないが、やはり元人間がサルとして生きるのは難しいだろう。人間の時でさえ、やや群れから孤立していたのに、サルになって上手くいくとも思えない。
さて、では問題はどうやって効率よくこの物語の役割を果たすかだが、見るからに私はサルなのだ。それも由緒正しきニホンザルだ。順当にいけば桃太郎あたりが妥当だろう。まずは桃太郎に会って、家来にしてもらう必要がある。そうと決まれば鬼ヶ島から逆算し、川沿いを歩こう、きっと桃太郎に出くわすはずだ。
村人の噂話を聞く限り、この辺りに鬼が出るようだ。どうやら物語はあっていそうだ。あとは桃太郎に会えば軌道に乗るのだが、なかなか会えない。イヌ、キジ、サル、の順番だったか、と記憶を思い返すが、サル、イヌ、キジだった気もするし、イヌ、サル、キジだった気もする。そんなことを考えながら歩いていると、ついに桃太郎らしき人影を見つけた。すかさず話しかける。「桃太郎さん、桃太郎さん。鬼ヶ島に行くのですね。きびだんごを頂ければ家来になっても良いですよ。」我ながら随分話の早いサルだと思ったが、なりふり構っていられない。早く元の世界に帰りたいのである。
「これはこれはおサルさん、申し出ありがとう。でも今回は遠慮しておくよ。なにせ家来は全員揃っているのでね。」こともあろうか桃太郎は私の申し出を断った。よくよく見るとサル、キジ、イヌ、全員揃っているではないか。どういうことだ、私は混乱しながら家来のサルを見た。家来のサルはニヤリと笑い、桃太郎達と鬼ヶ島へ向かっていった。
これは困ったどうしたものか、と立ち尽くしていると、後ろから声を掛けられた。「おサルさん、おサルさん、そんな寒そうなところでどうしたの。お部屋を暖めておいたので、早く一緒に戻りましょう。」振り向くと小さな小蟹たちが横一列に並んでいた。
どうやら今回の転生は猿蟹合戦のようだ。バッドエンドは火を見る前に明らかになった。
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