王子と聖女

 * * * *


 面会当日、サクヤは人知れず村を後にし、女性の衣装をアイテムボックスに収納し、旧グラシオール王城へと向かった。


 誰もいなくなった玄関先でスカートに着替え、胸元を久々に開放し、準備万端、整え、アレンが来るのを待っていた。


 さぁ~て…眼帯も取った事だし、声質は流石に気づいてしまうだろうな。


 が実はで、しかもだった…なぁ~んて知ったら、どんな態度を取って来るかな?


 魔法で見えるように施されていたとは言え、ずっと片眼だった目を久しぶりに開放すると、心地よい風が瞼を撫でるように感じるのも仕方ないだろう。


 コツン…コツン…と誰かが到着した足音が響いた。


「アレン王子様でしょうか?」


「聖女様ですか…姿を見せて頂く訳には参りませんでしょうか?」


「・・・構いませんが驚かないで頂きたいですわね」


(まあ、今は気づいて無いけど歩き方とかで気付かれる可能性はあるな)


「判りました。善処しましょう」


 待ち合わせ場所で止まったアレンの元へ、サクヤではなくサーヤとして初めて、その姿を現すと驚きで目を見開いていた。


「・・・そんなに驚く事かしら?」


「サクヤ…だよな?」


「・・・何だ…もうバレたか」


「どう、して…?」


「どうしてと問うのですか?!

 もう忘れてしまわれましたか?

 王族がのか・・・」


「申し訳ない。

 兄上は聖女様を置き去りにし、

 別人を謁見の間へと連れれ行ってしまった」


「それで何をなさいました?」


「その後、父がでは無く、

 してしまった」


「それもこれも全て、

 王族が犯した罪…ですわよねぇ…。

 何故と聞きましたね?

 指名手配されて、聖女のままでは犯罪者として、

 捕縛されるのは目に見えていました。

 幸いにも聖なる村に到着したばかりだったは、

 性別を偽り王家に復讐する事を決めました。

 ですが、アレン様が謝罪の文章を発表するまで、

 誰も謝罪を申し出てくれなかったのも事実ですよ?」


「サクヤ、すまない。

 謝っても許して貰えないのは重々承知している。

 だが、その場にいなかった俺は、

 止める事もとがめる事も出来なかった」


「・・・その所為せいで、

 男言葉が戻らなくなってしまったのですよ」


「そんな…」


「ふっ・・・あはははははは!

 聖女を置き去りにし、

 無視した国など戻らなくて良い…

 私の心を壊した王家なんて滅びれば…」


 彼女の精神に竜王が寄り添い始めた瞬間の言葉だった。


 心の底で最後の手段と思って居た言葉は、アレン王子が抱きしめた事で途切れてしまう。


「すまない・・・本当に済まない事をした…。

 父上も母上も兄上も…そして咎める立場にあった筈の宰相も、

 何もせず動く事も手を貸す事もしなかった事実は変えようも無い。

 だが、俺は君を・・・」


「俺を・・・?

 何と言うかは聞きませんが…

 口先だけでは何とでも言えますよ」


 冷めきった言葉を吐き出すサクヤ。


 龍王の精神が完全にサクヤを支配し始めた証拠でもあった

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