【幻夢の世界】(王目線)

 ぽた…ぽた…。


 静かな謁見の間に響く水音に正気を取り戻した王が目撃したのは、龍王が作り出した幻の世界。


 見せられて居る夢とは気づかずに自分の手を見て周囲を確認し「何をしてしまった」のかを把握したのだ。


「ふ…ふふふ…あーはっはっは!

 これがっ!!これこそが此度こたびの厄災と言うのか龍王よ!

 われに息子殺しをさせ王妃が石化してしまった事が、

 此度の厄災と申すのかっ!!」


 常軌じょうきいっして居た。


 王が見て居る世界は惨劇なのだ。


 目の前にはエヴァンの遺体が首を落とされた状態で横たわり右手には抜き身の剣を握りしめ、剣からは血液がしたたり落ちて居るのだから狂わない訳が無いのだ。


「馬鹿な息子と言えども、

 自らの手で命を奪ってしまうなど言語道断。

 王妃は龍王の呪いが掛けられ石化。

 これ以上、どのような厄災が我が国に訪れる事となるのか計り知れぬ。

 が、この不始末…我の命であがなう事は可能だろうか…」


 カシャン…と剣を落とした王は、フラフラとテラスに向かい身を投げようとしたのだが、あがなう、と言った瞬間から現実世界へと戻され、名も無き村から王城の様子を確認に戻ったアレンが、その行動を止めた。


「お止め下さい父上!」


「ア…アレ…ン?」


「一体何が起きたと言うのですか!

 王城に人がおらず街にも人がおらぬなど異常事態では有りませぬか!」


わしは…エヴァンの首をねて…しま・・・」


「兄上なら気絶しておられるだけでございます!

 気を確かに持って下さい!!」


「え・・・」


 龍王から見せられて居た幻影から解放された王が見たのは、誰も居なくなった謁見の間に横たわる(その姿さえも幻影では有るが)無事な姿のエヴァンだった。


「ま…ぼろし…だったのか?

 龍王様から掛けられたのは、

 幻を見ると言う魔法だったのか?!」


「…言いたくは有りませんが、

 父上は龍王様に自分たちだけで厄災を負うつもりで、

 逢いに行かれたのでは有りませんか?」


「民に厄災が及ぶよりは…と…

 浅はかにも思ってしまった。すまぬ・・・」


「聖女様を探し出し、

 龍王様に許しを請えるよう努力いたしましょう」


「探すのは容易く無いで有ろう?

 しかもわしは彼女をしてしまった」


「何て事を!」


「すまぬ・・・すまぬ・・・」


「…王子として王様、

 貴方を幽閉させて頂く。連れて行ってくれ」


「「はっ」」


 王城に戻って居たのは第一騎士団の一部。


 彼らが見張りを担い王城の管理を担う事となる。


 幽閉後の身支度などを担う人物に心当たりが無かったアレン王子は、村に戻ってから相談しようと心に留める事となった。


「幽閉はしなくてはならぬのだが、

 崩壊してしまった国を再興するのは至難の業…

 一体どうすれば良いやら…」


「アレン様・・・」


「宰相?!そなた無事で有ったか」


「はい…王城に御座います、

 龍王様の神殿にて贖罪しょくざいをしておりました。

 騒がしさに気付き、

 王様が狂ったように叫ぶ姿を見てしまい、

 止める術を失っておりました」


「聖女様が向かわれた先は

 『名も無き村』で間違い無いのだな?」


「御意」


 アレンは村に戻り、秘密を探る事にしたのだ

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