ぼくはもう思い出さない。 『かなたの記憶』

ぼくはもう思い出さない。

あたたかい風が吹き始めても、陽の光が眩しくなっても。

手がかじかんでも、着る上着が増えても。

 

思い出さない。

雑踏に声を聞いても、一面に咲く花を見ても。

自分を愛せなくても、言い訳ばかりが襲ってきても。


ひどく寂しがりなぼくは、

芋づる式に妄想をふくらませるという、

どうしようもない悪癖を治せないけど。


周期的には四年に一度。

ぼくが好きでないオリンピックを、きみは好きだと言っていた。

たわいない言葉が引き金を引く。あちらこちらで。


きみが生まれ出てくる一刻一刻を、ぼくは愛した。

次々と死んでゆくぼくに対して、きみは常に生まれていたので、

いつしか齟齬が大きくなった。


revivalをするぼくの、

reverseをする日常の。

reuseをする肉体の、

remainをする魂の。


在り処を求めていたのだろう、きみを受け皿のようにして。

若くて愚かだったぼくのせいだね。景色はまるでSally Gardens。

evergreenに飲み込まれてゆく。


強がってはみるものの、すぐに叢雲が垂れ込める。

切れ目にあかりが灯るとき、きみが必ず微笑んでいる。

手が届かないのだから、目を伏せるしかないだろう。


きっと思い出さない。

けれど、忘れようがないというジレンマを抱えながら、

ぼくは日々死を重ねるだろう。


周期的には四年に一度。

そんな頻度できらめく刻は、まぼろしい記憶として、

降り注いでは積もるだろう。


revisionはするものの、

reactionは返らないまま。

recommendはしまいこむこと。

removeが叶わないのなら。


あえて見て見ぬ振りをして歩く。

ぼくはぼくのしあわせのため。

互いのしあわせという偽善のもとに。


綺麗なものは綺麗なままで、

季節としてただこの身に浴びるよ。

思い出さない。

ぼくはもう。



200302

原題『remind』

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