雨のなかでもきみはうつくしく 『ハーバリウム』

雨のなかでもきみはうつくしく

日の沈まない夜のような空のした

それはうつくしくて

ぼくは泣いたよ


ハーバリウムはホルマリン漬け

きみの姿をあるがままに留めるけれど

すこし苦しくなって

伸ばす手を止めた


本物の美をいちど目にしてしまうと

綺麗な写真も死と等価になるね

残酷な現実

どうしてなの


ねぇ

枯れるときみはいなくなる

また会おうと言えないね


思えばぼくもおなじだね

ひとつの生をいきる者だよ


小高い丘できみを見ていた

遠い国にひろがるような曇天のした

楽しげにおどって

ぼくも笑んだよ


小瓶のおしゃれなハーバリウムが

きみの亡骸を閉じ込めているみたいで

ふと切なくなって

目をそらした


物語のように幻想的な世界は

実は結構身近に存在するね

知らないだけで


ねぇ

今だけどうか許してよ

またねって夢を観たいの


かりそめの体だとしても

それはぼくもおなじだからさ


ネモフィラが波のようにさざめく

去年のきみではないきみが

いちばんうつくしい季節がめぐる

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