勇者なの!?

紫斬武

序章

第1話 え?そんな勇者ありな訳?!勇者アスカ・ウェイレン

小さな小さな森の中、そこに一軒の家が建っていました。


周りには切り株や、小動物などに囲まれてそこだけが平和ボケしたような家。


よくある、よくある!と思わず言っちゃうような家。


つまりは只の木の家ですが、その家にはいつまでも新婚気分の両親と、そんな両親を見て育った一人の少年が住んでいました。


カコン!


斧を持った少年が、木を切っていました。


赤い髪が夕焼けに照らされ、キラキラと光っています。


ふと顔を上げた少年は、グリーンの瞳を空に向けて汗を拭いました。


少年の顔はとても可愛らしく、変なオジサンがこの場にいたのなら直ぐ様、連れ去ってイカガワシイ行為に及んでしまう程の美少年でした。


「ふー、今日はココまででいいかな?」


とても澄んだ声を発しながら、少年は呟きました。


斧と薪を持って、少年は家の方へと歩いて行きます。


少年の名前はアスカ・ウェイレン。親想いで、働き者の少年です。


「ただいまー」


家に帰ると、テーブルの上には豪華な食べ物が沢山あった。


「あれ?今日って何かあったっけ?」


目の前にいる父さんに、ボクは笑顔で聞いた。しかし、すぐさま言わなきゃ良かったと後悔する。父さんは頬を染めながら、ボクの問いかけに答えてくれた。


「いや~、今日は母さんと初めて話した記念日なんだ。ついでにアスカの誕生日だろう?なー、母さん」


「そうよ~、とっても特別な日なのよ~」


「おっ、今ので母さんとの会話は1万億5千9百82回目だ!」


「まあ、嬉しい!覚えててくれたのね!」


「あたりまえじゃないか!」


頬染めながら話す両親達に、ボクは頭を抱えた。むしろボクの誕生日よりも、両親のくだらない記念日の方が大事な事に悲しくなった。


「父さん、母さん、昨日もそんなこと言ってお祝いみたいなのしなかったっけ?」


「昨日は母さんと初めて手を繋いだ記念だ。今日とは別だぞ、アスカ」


得意げに言ってくる父さんに、ボクは溜め息混じりに父さんに言った。


「どっちでもいいから…」


「ひどいわ、どっちでもいいなんて!」


「か、母さん!泣かないでくれ!アスカ、母さんに謝るんだっ!」


「なんで!?ボク悪い事したっけ!?」


むしろ誕生日をついで呼ばわりされたボクの方が泣きたいよ。相変わらずな両親に、ボクは益々溜め息を吐いた。泣く母さんに、母さんの肩を抱きながら怒る父さん。


「……ごめん」


不本意だけど、ボクは両親に謝った。機嫌を取り戻した両親は、ボクに座るように言って座ったボクは夕飯を取ることとなった。


ご飯を食べていると、突然両親が箸を置く。その仕草を、ご飯を食べながらボクは見つめた。


しかし声はかけない。


どうせまたくだらないことなんだろうなー、なんて思いながら両親の顔を見ると………泣いていた……。


「な、何泣いてんの?!」


ボクは嫌な予感に打ちひれる。


なんだろう、ボク何かしたっけ?


両親は口元に手を当て、泣きながらボクに向かって言った。


「息子と最後の食事か……うぅ」


「はっ!?何!?どーいうこと!?」


「うぅ……、お前は今日で16歳…」


「そうだけど、なんでそれで泣くわけ?」


父さんは涙を手で拭いながら、重い口を開く。


「お前は勇者だ!16歳になったら魔王を倒しに旅に出なければならない!」


父さんが言った途端、ボクは沈黙。その沈黙の中で、すすりなく母さんの声と、またもや堪えきれなくなった父さんの泣く声。絶句する二人の息子であるボク。


「…え?ボク勇者なの?!」


「ああ、そうだ」


一先ず我に返ったボクが、両親に問いただす。父さんの顔は真面目そのもの。勇者ってことはさ、よくある勇者ってさ、両親が違うとかが多いようね?ってことは、ボクって……。


「え?じゃあ、ボクは二人の子供じゃないの…?」


「何を言ってるんだ!正真正銘、母さんと俺が深く愛し合って出来た子だっ!」


「…へ?じゃあ、どっちかが勇者の血とか引いてるとか?」


「いいえ、私は引いていないわよ?」


「ああ、俺も普通の一般家庭で生まれたぞ」


再び、ボクは黙った。ボクの頭の中には、何かかが違うと叫んでいる。


「…じゃあ、ボク勇者じゃないんじゃない?」


ふと結論出した言葉を、ボクは父さんに言った。


「いや、お前は俺が今決めた勇者だっ!」


胸を叩きながら、さも自分がいい事を言ったように言う父さん。胸を張って言う父さんの横で、母さんが黄色い声を上げながら父さんに抱きつく。


「それおかしいから!!なんで父さんが勝手に勇者を決めてんの?!」


「俺がそう思ったからだ!!」


「お父さん、カッコイイわ~」


がっくりと肩を落としながら、ボクは父さんに言った。


「ボクは行かないよ。勇者じゃないのになんで……って、なんでまた泣いてんの!?」


「だって、アスカ…、せっかく私がアスカの為に用意したモノがダメになるなんて……」


「母さん、泣かないでくれ。俺も母さんが泣いてると、悲しくなってしまう!」


これ見よがしに、母親が『銅の剣』や『旅らしい服』を取り出した。


「アスカにはわからないのね、コレを買った私たちの気持ちがっ!この為に、父さんと私は夜の街に繰り出して、それはもう過酷な仕事をしたのよ!?父さんなんて初めてだったんだから!!」


母さんの言葉に、ボクは滝のような汗をかく。と、父さん、一体何したの!?頭で浮かんだ言葉が、ボクの口から言葉を発する。


「…………何したの…………」


「俺の口からはとてもじゃないが………言えん!うぅ……、俺は大切な何かを失ったんだっ――――――――っ!」


「あなた!あなたはまだ綺麗だわ!汚れてなんていない!犬に噛まれたと思って忘れて!!悲しまないで!」


「ああ、息子の為にやったことだ……、後悔はしていない!けどな、アスカは旅に出ないって…ぅぅ…」


終止符のつかなくなったボクの両親達。ボクは箸を持ったまま、諦めのついた声で言った。


「……行くよ……旅に出る……」


ともかく何もかもが嫌で、ボクは頷いた。……父さん、本当に何したの!?聞きたくても、ボクは聞けなかった。



こうしてボクは、勇者の血も引いていないのにも関わらず、勇者として旅に出る事となった。

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